iPS細胞とSTAP細胞の分かれ道

グレーの状態から白い仮説に変わったもので有名なのは、iPS細胞です。2006年に山中伸弥教授が論文を発表した当初は、今からすると意外ですが、あまり注目されていませんでした。でも科学者たちが追試をしたら、結果が再現できた。こんな方法で細胞は初期化できるのかと、みんな驚いたわけです。一気に白い仮説になっていったんですね。

会見する山中所長「iPS安定供給が使命」
写真=共同通信社
記者会見する京都大iPS細胞研究所の山中伸弥所長(当時)=2018年12月18日午後、京都市

逆に黒い仮説になってしまった例は、2014年に発表されたSTAP細胞です。

論文が掲載されたのが『Nature』、著者の小保方晴子氏の所属が一流の研究所で、彼女の上司がES細胞の権威だったことで、発表当初は世界中の科学者がこの論文を信じていました。ところが、残念なことに誰も追試で再現できず、「あの論文は間違ってるんじゃないか」と一気に転げ落ちてしまいました。

実は、科学雑誌に載せる前の査読では、論文におかしいところがないか、論理的な整合性が保たれているかを主に見るので、実験をして確かめることはしません。

実験して確認したほうがいいんじゃないかと思うかもしれませんが、査読は基本的にボランティアなうえに、最近の科学はおいそれとは実験ができないので、それは現実的でないのです。データが改ざんされている可能性ももちろんチェックはしますが、確認には限界があります。

つまり科学論文は、性善説のもとに掲載されているのです。掲載された後に、世界中の科学者がその論文を読んで、追試が始まるという構造で成り立っているわけですね。

科学者や医者は「100%安全」と断言しない

ここまでお話ししてきたことからもわかるように、「100%白い仮説」は1つもありません。100%と言ってしまったら、それは反証がないことなので、科学ではなくなってしまいます。ところが、どうしても人は科学に100%を求めてしまうものです。

とくに最近の身近な事例でいうと、新型コロナウイルスのワクチンの副反応の話が記憶に新しいでしょうか。ワクチンに関しては、「それは100%安全なのか」という質問が多く寄せられます。科学者や医者はそれに対して、科学的な姿勢として、「100%ということはありません」と答えます。