そこで、先進国メーカーが乗り出したのが「量を売る商売」から「質を売る商売」への転換だった。例えば、スポーティなイメージを重視した低扁平率タイヤや、安全性を重視したランフラットタイヤ、今日でいえば環境対応型タイヤの登場に象徴されるような、何らかの付加価値の付いた高機能タイヤを前面に出して、高価格製品の購買層を獲得・保持していこうという考え方である。

80年代の合従連衡により、大手数社による寡占化が著しく進んだ。同時に進められたリストラも功を奏し、90年代から2000年代にかけてのタイヤ供給は増産・値上げ傾向にあり、各タイヤメーカーは00年以降、他の多くの業界とは逆に設備投資に走っている。

前述の通り、タイヤはリプレース市場が主力。世界の人口が増え、自動車が増える限り、需要の伸びが止まることは考えられない。不毛なシェア競争に鎬を削るより、企業の成長率こそ2~3%と低く抑えられても、優良な顧客を確保・拡大していったほうが長期的には安定した経営が見込める。

こうした方向性は、00年代に市場の寡占化が明確になった段階で、大手のタイヤメーカーが軒並み考えたことだろう。ブリヂストンの「脱シェア競争」も、こうした業界の変遷からすれば、何も今に始まったことではないとも見てとれる。

昨今、様々な産業において業界再編の可能性が取り沙汰されているが、タイヤ業界の場合は、これまで述べてきたような市場の特殊性はあるものの、そこに見るような合従連衡による寡占化や、低成長を前提とする経営の長期安定化への模索は、他の業界でも起こりうるものと推測できる。

パイを無闇に奪い合うのではなく、付加価値を伴う高い商品性を武器にして、利益率を維持する。ブリヂストンの取り組みは、そんな「持続可能な企業経営」のモデルとして、今後が注目される。

(構成=高橋盛男)
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