NHK「豊臣兄弟!」では、お市が兄の織田信長に小豆袋を送り、危機を知らせるシーンが描かれた。お市は、過去の作品でも“家族思いな美しい女性”として描かれているが、実際はどのような人物だったのか。ルポライターの昼間たかしさんが、文献などを基にお市の史実に迫る――。
小豆
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お市の小豆袋は“朝倉視点の創作”

NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」。やがて天下を手中に収める藤吉郎(池松壮亮)と小一郎(仲野太賀)の姿を描く物語は、金ヶ崎の退き口(第14回)から姉川の戦いへ(第15回)と、順当に物語が進んでいる。歴史の流れは変わらないので、そこでどう人物を解釈して描くかが、大河ドラマの醍醐味である。

そんな中「また出た!」と思ったのが小豆の袋。信長(小栗旬)の妹・お市(宮﨑あおい)が両端を縛った小豆袋を密書と共に送り「袋の鼠ですよ(逃げ道はありませんよ)」と、浅井長政(中島歩)の裏切りによる危機を知らせた、という逸話である。

兄妹愛と夫婦愛の中で揺れる、お市を描く絶好のエピソードだが、もちろん創作である。

これの出典は『朝倉家記』。これは天正年間に成立した『朝倉始末記』の異本とされるもの。『朝倉始末記』は朝倉氏の興亡を記した軍記物語で、朝倉氏の旧臣によって執筆されたと考えられている。ようは、お市に会ったこともない作者が想像で書いたもの。しかも、この本、朝倉氏の旧臣の視点で描かれているわけで、書いた動機は明らかだ。

「信長の妹でさえ、朝倉の味方をしてくれた。それほど我々は正しかった」という、敗者の自己正当化である。現代でいえば、新興企業に買収されて潰された老舗企業の元社員がnoteに書く「あの頃うちの会社は本当に良かった」記事と、構造としてはまったく同じだ。