「天下一の美人」は事実だった

つまり小豆袋の逸話は、信長に滅ぼされた朝倉の旧臣が「自分たちは悪くなかった」と言いたくて作り上げた話が出発点である。お市の人物像は、敗者の自己正当化のために動員されたのだ。

だが、それだけではない。この逸話が後世に広まり、繰り返し描かれてきた理由がある。読む側にとって、あまりにも「美しい話」だったからだ。兄への忠義と夫への愛の狭間で揺れる美しい女性……この図式は、江戸時代の読者にも、現代のドラマ視聴者にも、等しく刺さる。

結果、気づけば、創作が史実を上書きして現在に至っているのである。