昨今の経済事情、消費者の節約志向から、ビール類消費は「家飲み」が主流になりつつある。

2009年5月の飲食店向けの業務用ビールは、前年同月比で8.5%減(課税済み出荷数量)と大きく落ち込んだ。ビール系飲料全体では、ビール7.3%減、発泡酒11%減。それに対して新ジャンル(第3のビール)が13.6%の大幅増だった。

廉価で持ち運びやすい缶製品を買ってきて家で楽しむ。小売店であれば、飲食店とは違い、消費者の細かいニーズに応えることができる。

ビール、発泡酒、新ジャンル。加えて機能系(カロリーオフ、プリン体ゼロなど)と、ビール類市場は百花繚乱とブランドが溢れ返っている。スーパーマーケットのビール冷蔵陳列ケースの前に立つと、どれを選んでいいのかわからなくなる。

ビールから新ジャンルへ顧客嗜好が傾く中で、各社はどう対応するのか。激烈なシェア争いの焦点になりそうだ。

本取材の最中に、事件は起こった。

写真右から遠藤琢司氏(アサヒ)、柳井剛氏(ヨーカ堂)。自社の新商品が、スーパードライの客をとらないか細心の注意を配る。

写真右から遠藤琢司氏(アサヒ)、柳井剛氏(ヨーカ堂)。自社の新商品が、スーパードライの客をとらないか細心の注意を配る。

2009年6月上旬、宮崎県のスーパーで万引き集団が逮捕された。白昼堂々、缶ビールレギュラー缶ケース23箱、計552本を店外に持ち出したのだ。それがすべて「スーパードライ」だった。数あるブランドの中でスーパードライだけが狙われ、悪の触手(?)が伸びたのである。

また、販売店で定番の冷蔵陳列では、スーパードライの右隣がマグネットポイント(特設スペースの角など、人の流れの中で目につきやすい場所)と言われる。最強ブランドの右側が目立ち、右手で取りやすい、という法則があるのだ。各社の営業マンはお客の動線を読んだうえで、スーパードライの横を狙う。

そう、スーパードライは常に狙われる存在なのだ。

活況を見せる新ジャンル市場。アサヒ以外の3社は、スーパードライの牙城を崩すべく新商品を投入してくる。

いくら人気と実力があり、一家の主人が「スーパードライが飲みたい」と思っていても、実際にスーパーから買ってくるのは主婦だ。いわゆる代理購買で、代理購買者こそが商品の値段にシビアである。

「他社は、一番大きい売り場を占拠するスーパードライに照準をあわせてきます。『広いスペースだから減らしても大丈夫でしょう。うちの新商品を』という具合に」

そこをどう守り抜くか。

「スーパードライのフェイス数(売り場に並べる缶数)を狭くしてしまうと、補充が大変で、結局手間暇ばかり増えてしまいますよ、というようにご理解いただく」

熱く語るのは広域営業本部の遠藤琢司。都内のイトーヨーカ堂を担当する。

「たとえばチラシ。ヨーカ堂さんがお酒のチラシを打つときは、お酒で最大に売り上げを取りたいときです。ビールの売り上げは、お酒の大半を占める。そしてスーパードライはビールの売り上げの大半を占めます。スーパードライを伸ばすことが店舗の売り上げを最大化することにつながります」

2009年5月後半に近隣にヨーカ堂が配布したチラシのテーマは、まさに「ウチ飲み」だった。