家飲み、ということになれば、自ずとキリンの優位性がクローズアップされてくる。

発泡酒・新ジャンルで躍進するキリンビール!
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発泡酒・新ジャンルで躍進するキリンビール!

ビールレギュラー缶が6缶で1100円、新ジャンルが700円だとしたら、夕飯のお惣菜が1品買える。よほどのこだわりがない限り、安いほうに手が伸びるのも無理はない。

ビール部門ではアサヒ・スーパードライに水をあけられているものの、発泡酒、新ジャンルでは圧倒的強さを誇っている。2009年1~3月の新ジャンル、発泡酒も含めたビール系飲料のシェアは、37.7%とアサヒを1.9ポイント上回り四半期ベースで2年ぶりに首位を奪還した。

なかでも新ジャンル首位ブランド「のどごし〈生〉」の強さは群を抜く。1~5月の累計販売数量で前年同期比で約16%も伸びた。

その状況を目の当たりにした。

茨城県内に14店舗を展開するスーパー「サンユーストアー」の日立東町店。キリン茨城支社の矢野真梨に同行した。売り場の一番目立つ場所にドンと「のどごし〈生〉」が陳列されている。黄金色と白のデザインが大きく展開されているせいか、売り場が明るく、元気に見えてくる。

日立市は日本を代表するメーカーの町。だが昨今の経済情勢で賞与は2割カット、有休以外の取りたくもない休日も増えているという。町全体が自然と値段にシビアになる。レタス1個76円、国内産豚挽き肉(100グラムあたり)66円と相当に安い。

「キリンさんは小まめに巡回してくれる、というのもありますが、『のどごし〈生〉』は自分で飲んでも美味しいと思う。変なクセがない。だから並べるわけですが、それがどんどん売れる。ビールから発泡酒を飛ばして、新ジャンルに直接お客がなだれ込んでいる状況です」と村山正彦店長。急激な経済状況の変化で売れ始めた、というよりも、発売当初から売れていて、急激に加速していった、と言う。

そうは言っても、矢野のような営業の熱意と無関係ではない。

サンユーのある店舗でサントリー「金麦」にフェイス数を席捲されたことがあった。その情報が直ちに伝わり、上司に大喝された。矢野は挫けず、すぐに店舗を訪れて店長を説得、1日でフェイスを並べ替えたという。日頃からの熱心な売り場の整備が、店長の信頼を勝ち取ったのだ。

キリンの戦略は興味深い。

写真右から矢野真梨氏(キリン)、村山正彦氏(サンユー)

写真右から矢野真梨氏(キリン)、村山正彦氏(サンユー)

地域密着の営業を強化するために、サンユーストアー、JA全農いばらきとタイアップ企画を打ち立てた。キリン製品を購入した店のレシートをハガキに添付して応募すると、温泉旅行や高級食材が当たる。旅行先は茨城県内、プレゼント食材は茨城県産コシヒカリやローズポーク味噌漬けなど。身近な地元密着の景品を用意したのだ。

「通常の企画のようですが、実は今までお付き合いのなかった旅館やホテルにも恩恵をもたらしています。プレゼントが海外旅行だとこうはいきません。営業が出ていく場所を少しずつ増やしていく狙いもあります」と茨城支社長・藤本省三は話す。

アルコール0.00%の「フリー」、サッポロから販売権が移った「ギネス」も同様の戦略が展開できる。

「今までキリンの飲料を置いていなかったファミレスや飲食店にも、『フリー』や『ギネス』の納入の際に『一番搾り』などの営業ができる可能性がある」(広報)

キリン本社は新ジャンル隆盛の流れをどう見ているのだろう。新ジャンルの新製品「コクの時間」も出た。「のどごし〈生〉」の分厚いシェアを喰ってしまわないのだろうか。

佐藤章氏(キリン)。佐藤氏は「生茶」「FIRE」などの清涼飲料を次々と大ヒットさせた。

佐藤章氏(キリン)。佐藤氏は「生茶」「FIRE」などの清涼飲料を次々と大ヒットさせた。

営業本部マーケティング部長の佐藤章は自信満々に語った。

「各社で新商品を乱発していますが、当然、お客様は美味しいものを選び抜きます。飲んで安心できるもの、いわば定番回帰ですよね」

定番回帰のための3カテゴリーに中心ラインをつくる縦軸戦略。新ジャンルの「のどごし〈生〉」、発泡酒の「淡麗」。この上にリニューアルしたビール、「一番搾り」を置きたい、と言う。

「現在、ビールを飲む中心の層はスーパードライを飲んでいます。だからといってアサヒの顔色を窺い、対抗する商品を出すのではなく、ビールを飲むコアな層を根本からキリンに移してしまおうと考えています」

営業チャンネルを徹底して広げながら、コアな層も奪う。現在のところキリンの戦略は大きな成果を挙げている。(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(増田安寿、熊谷武二=撮影)