サントリーの営業マンが元気だ。
08年、ビール営業部門では初の黒字に転じる好調ぶりで、シェア争いでもサッポロを抜いて3位に躍進。焦点の新ジャンル市場でも「金麦」がカテゴリー内で3位と好調だ。
なんといってもサントリーの強みは「ザ・プレミアム・モルツ」(プレモル)の伸びだろう。08年出荷は1196万ケースと大台を突破、09年の夏の中元商戦でも堂々の主役といった感がある。
「もしプレモルがなかったら、と思うとゾッとします」
そう語る大阪本社営業・西口大輔。和歌山のスーパー「オークワ」を担当している。
05年にプレモルがモンドセレクション最高金賞を受賞したときから、格段に変わってきたというのだ。
「それまでは、美味しいビールをつくっている自負があったのに、市場に浸透させられなかった。スーパーの本部で商談をしても難色を示されたり。それが、最高金賞を受賞してからはお客さんから問い合わせがくる。置いてもらえば売れますから、商談も店舗巡回も活気づきます」
贈答品として送られて家で飲む。あるいは、特別の日にゆっくりと飲む。そんな家飲みだ。
「お中元の仕掛けは桜が咲く頃から始まります。いかにセットを提案してパンフレットに数多く載せてもらうかが勝負です。うちはプレモルしかないのですが、商品力の強さで食い込んでいます。プレモルをつくっている会社のブランドということで『金麦』の商談もスムーズです。シェアではサッポロを抜きました。次はスーパードライです」
オークワ・フード事業部シニアバイヤーの辻本秀樹は「ビール類は分極化されてきた」と見ている。
「スーパードライを中心とするビール分野を、新ジャンルの売り上げが圧倒的に超えています。一方で、プレミアムビールをお求めになるお客様の層も根強い。こちらのほうはシェアが大きくないので、絞り込みをかけます。アイテム数は多くなくていいんです」
そこに、ぐっとプレモルが食い込んだ。
プレモルの好調を足掛かりにスーパーとのリレーションはさらに強固になった。まさに一点突破・全面展開である。
苦闘していた営業を奮起させるためにプレモルが開発されたわけではない。プレモルが売れるきっかけとなったモンドセレクション最高金賞の受賞も、いわば偶然の産物だった。美味しいビールをつくれとの社長の命を受け、武蔵野ビール工場醸造技師長の猪澤伊知郎は小さなブリュワリーで試作品づくりに勤しんだ。
「自分が一番美味しいと思ったチェコのピルスナータイプの味を目指し、原型になるビールをつくりました」
03年、原型をリニューアルしたプレモルが出来上がった。つくり手は手応えを感じていたが、時の流れはドライから発泡酒に移行していた。あっさりとした淡泊な味わいがトレンドで「このビールは重い」と反応は芳しくない。
「味には自信があったので、もっと客観的な評価が欲しいと、ヨーロッパのモンドセレクションに持っていったんですね。それが05年のビール部門での最高金賞になるわけです」
金賞の上、である。その最高の栄誉が以降3年連続で続いた。
「プレモルは何杯飲んでも飲み飽きない。ビールだけで飲んでも美味しい。コース料理の一品としてだしてほしいぐらいです。家庭でゆっくり楽しんでほしいビールでもあります」
猪澤はそう胸を張った。
新ジャンル「金麦」も好調だ。
「正直、発泡酒や新ジャンルは口にしなかった。でも『金麦』だけは美味しいので飲んでます(笑)」
さらにサントリーは新ジャンル市場に新たな手を打った。イオン、セブン&アイ・ホールディングスとのそれぞれの共同開発で、2009年7月下旬よりプライベートブランド(PB)の発売に踏み切ったのだ。大量発注と物流費の削減によってさらに低価格化を実現する。イオンPBは「麦の薫り」(350ミリリットル100円)、セブンPBは「THE BREW」(同・123円、コンビニ以外での販売は6缶600円)。
PB開発は業界としては初の試みだ。商品も営業戦略も飽和状態に達したか、と思いきや、斬新な戦略はあった。ビールウォーズ、恐るべし!(文中敬称略)
※すべて雑誌掲載当時