なぜかこっそりやる「エリート養成」

こうしたタレントマネジメントの候補に選ばれると、本人に対して「あなたは選ばれました」と伝え、そのことを社内にも明示することになっている。

なぜなら、優秀な人に対して会社が支援するという姿勢を打ち出せば、本人もそのことを誉れと思い、モチベーションを高めて一生懸命にがんばろうと思うからだ。もちろん選ばれたといっても、その後のパフフォーマンスが悪ければ候補者から外れることもある。

ところが、多くの日本企業の場合、優秀層のタレントマネジメントは選ばれたことを本人だけではなく、社内に対しても明示しない。

たとえば、大手精密機械メーカーの人事部長は語る。

「社内はもちろん本人にも明確に伝えていません。ただし、特別なグローバルトレーニングに積極的に参加させるようにしていますので、こちらから伝えなくても本人には自然にわかるようにはなります」

また、大手小売業の人事部長も同じようにこう話す。

「選ばれるとサクセッションプラン(後継者育成計画)に入りますが、本人たちには伝えないことになっています。ただし、意図的に重要なポジションに配置する人には、1年間のエグゼクティブコーチングをつけています。ですから本人は会社から期待されているタレントであることがわかると思います」

では、なぜ選ばれたことを本人に伝えないだろうか。何を気にしているのだろうか。

「やはり社内では、人を選ぶことに対する抵抗がものすごくあります。選ぶということは他の人を排除することになるので、それはやりたくないという経営層もいるのです。個人的には、ある程度本人に明示してやったほうが、やる気も出ると思うのですが、経営陣の中には反対する人もいます。要するに、選ばれた人のモチベーションは上がるかもしれないが、逆に選ばれなかった人のモチベーションが下がるのが怖いということなのです」(小売業人事部長)

また、別の大手電機メーカーの人事担当者は選ばれても、途中で外された場合のことを気にしていると語る。

「選ばれた人にあなたは選ばれました、とは当社でも言っていません。一方であなたにこういう期待をしているので新しい役職に就けると説明し、結果を出してほしいと伝えています。ただ、候補者全員を新しい役職に就けるとか、一律に研修に出すということはやっていません。個々人の適性を見て決めていますので、周りから見たら選ばれた人であるかどうかはあまりよくわからないという感じですね。また、一部のトップ層の候補者を選んだときに、選ばれたと言っても、毎年のパフォーマンスの結果で外れる可能性もありますし、そのときにモチベーションが下がるかもしれません。そういうリスクを考えると、少なくとも最初は言わないでやりたいという意見が多かったのです」