残業させているのに残業代を支払わない

官民を挙げた働き方の見直しが叫ばれている。安倍政権は新たに「働き方改革担当大臣」を新設するなど意欲的な姿勢を見せている。

働き方改革の最大の課題は何といっても「長時間労働の削減」だろう。

政府は月間80時間超の残業の取り締まりを強化しているが、社員が1人でも80時間を超えていれば労働基準監督署の「臨検」を受けるだけに戦々恐々としている業界や企業も多い。

そのこともあって会社内に「長時間労働削減プロジェクト」といった残業削減のためのタスクフォースを急遽立ち上げて取り組んでいるところも少なくない。

とはいっても、これはというアイデアがなかなか出てこないらしい。中堅の食品会社では人事部が事務局となり、営業、開発、管理部門などの社員が参加する部門横断型のプロジェクトで検討している。

「メンバーから出てくる案は、ノー残業デイやノー残業月間を設けるといったもの、また今流行の始業時間を早めて、終業時間を夕方5時前にするといったステレオタイプのものばかりです。しかも終業時間を早める案については営業部門が『お客さんの対応ができなくなる』と反対してくる。部門ごとに事情が異なり、意見がなかなかまとまらないのが現状です」(人事担当者)

本来、長時間労働を減らすには部署ごとの業務を洗い出し、効率化を妨げている一つひとつの業務を見直すことが必要なのだが、そこまでの権限を与えられていないプロジェクトも多い。

取材をして驚いたのは、残業時間削減のプロジェクト自体が自主的参加という名目で、メンバーに残業代を支払わない会社も少ないということだった。

小売業のプロジェクトに参加するある社員はこう語る。

「自主的参加といっても各部門から半ば指名されて参加しているのがほとんど。夕方の5時過ぎから会議が始まり、定時の6時までの1時間が会議の予定時間ですが、7時過ぎになることもあります。超過分の残業代が出るのは当然だと思いますが、残業時間を減らすための会議なのに残業していたらおかしいから、労働時間に入れないという理屈なのです」

残業を減らすこと以前に、残業しているのに残業代を支払わないのはそもそも法律違反だ。変な理屈で残業代を支払わず、違法状態にある残業抑制プロジェクトで社員の残業対策を考えること自体が本末転倒ではないかと思う。