定年前と同じ仕事「賃金引き下げは違法」
60歳の定年後も同じ会社に継続雇用されて働いている人が年々増加している。厚生労働省の調査では定年に達した人の82.1%が継続雇用で働いている(2015年)。
最大の理由は2012年の高年齢者雇用安定法(高齢法)の改正だ。それまではどんな人を継続雇用するかを労使協定で決めることができたが、それが廃止され、年金支給開始年齢まで希望する人全員の雇用確保が義務づけられたからである。
本当は定年で辞めてほしい人でも雇わざるをえない。
会社にとっては人件費負担もばかにならない。そこでほとんどの企業が定年後の給与を定年前の半分程度に引き下げ、しかも1年更新の有期契約を結んで働いてもらっているのが実態だ。
ところが、今年の5月13日。
東京地裁が企業の人事担当者をドキリとさせる判決を下した。定年前と同じ仕事をしているのに賃金を引き下げるのは違法で無効。定年前の賃金との差額を支払えと命じたのだ。
提訴したのは定年後に再雇用されたトラック運転手の3人。いずれも運送会社に20~30年超にわたり正社員運転手として勤務し、60歳の定年後に1年の有期雇用契約を結び嘱託社員として再雇用されていた。
仕事内容は定年前とまったく同じ運転手の業務に従事していたが、賃金は年収ベースで約20~30%も引き下げられた。
世間から見れば30%程度の引き下げはどこにでもある話だが、裁判所が注目したのは仕事の内容だ。そしてその根拠となった法律が今回初めて適用された労働契約法20条(不合理な労働条件の禁止)だ。