人の足を引っ張る……。良識のある者のやることではないと大半の人は思うが、会社のため、組織のためという大義名分を主張しながら、いざとなると人の足を引っ張るのはなぜか? 『「課長」から始める 社内政治の教科書』著者の高城幸司さん、対人・社会心理学の第一人者、齊藤勇さんに、嫉妬とプライドや、理不尽な人事などに隠された“裏の心”について聞いてきた話を、5回にわたってお届けします。

評価基準に隠れた上司の「裏メニュー」とは?

手柄の奪い合い、理不尽な人事、嫉妬とプライド……。なぜ、人間は必ず人の足を引っ張るのか?『なぜ、嫌われ者だけが出世するのか?』齊藤 勇著 プレジデント社刊

【齊藤】上司は、部下の業績に対し常に客観的な評価をしているわけではありません。上司は「自分と一緒に仕事をする人」を選んでいる。学校のテストや成績の優劣とは違い、上司は自分の仕事をやってくれる人が欲しいもの。学校教育でのえこひいきは駄目ですが、会社の中はえこひいきだらけ。私は学生によく伝えるのですが、会社というものはえこひいきがまかり通る世界なので、それを駄目と言っていたら、生き残っていけない、と。自分とともに仕事をする人を選ぶということをバイアスといったらバイアスにあたります。

【高城】人事評価とは、そもそも「合理的なえこひいきの仕組み」です。たとえば営業は、売上を上げれば高い評価がもらえる。ところが、売上を上げる人は重要でも、たくさん安く値引きをして売ってきたらどうするか? 赤字に近いような形で売上を上げた人がいたら……。そのときに「売上は上げたけれど、会社の利益に貢献してない」と言われると、営業は「最初に言ってください。利益が優先とは聞いていません」ということになる。

ここはすごく重要で、何を前提に人を評価するのかという点を、後出しジャンケンのように提示することは駄目です。バイアスとは、いわば上司の中の「裏メニュー」のような基準のことでもあります。その基準は本来、オープンにすべきですが、実際には上司は会社の決めた一般ルールに追加してくることがある。たとえば、礼儀であったり、ビジネスマナーだったり。

本当に上司が部下に愛情を持っているわけではなく、自分の持っている考え方に合うか合わないかだけ。プロ野球でも、誰が監督になっても活躍できる選手、監督が替わるたびにレギュラーから外される選手が必ずいます。野村監督は守備が大事だけど、星野監督はバッティングだと。それは好き嫌いなんですね。この場合の選択肢は、監督の好きな選手になるよう努力するか、自分のことを大事にしてくれる職場に移るかのどちらかになります。相手が何を望んでいるかを探すことはすごく大事だと思います。

【齊藤】上司は自分ではないので、「あなたは正しい」「あなたはできる」という評価はしてくれない。あなたはどのぐらい優秀ですかと尋ねると、日本ではみんな遠慮して私は駄目ですと言いますが、本当の心の中はわからない。でも、アメリカやオーストラリアの場合は、ほとんどの人は自分が優秀だと答えます。平均すると90点などになるわけです。おかしいですよね。平均は50点なのに。

ただ日本人の場合は、自己卑下したほうが評価されるから、なかなか本音は言わないけれど、心の中では「自分はできている、それが評価されない」と思ってしまう。それがバイアスです。