人の足を引っ張る……。良識のある者のやることではないと大半の人は思うが、会社のため、組織のためという大義名分を主張しながら、いざとなると人の足を引っ張るのはなぜか? 『「課長」から始める 社内政治の教科書』著者の高城幸司さん、対人・社会心理学の第一人者、齊藤勇さんに、嫉妬とプライドや、理不尽な人事などに隠された“裏の心”について聞いてきた話を、5回にわたってお届けします。

メールやツイッターのゴシップは本当にきつい

手柄の奪い合い、理不尽な人事、嫉妬とプライド……。なぜ、人間は必ず人の足を引っ張るのか?『なぜ、嫌われ者だけが出世するのか?』齊藤 勇著 プレジデント社刊

【齊藤】会社の中で評判が悪いと言われると、どんな人でもグサッとくる。どんなにいい業績を残していたとしても、「周りの評価が自分の評価」と受け取ってしまい、気分がいいものではありません。業績はもちろん重要ですが、それを周りの人がどう評価してくれているか。

ボウリング実験という実験があります。ボウリングでストライクをとると嬉しいのですが、ボウリングは非常に上手うまくできていて、投げる人はレーンのほう方を見ていて後ろで待っている人は視界に入らない。ストライクをとって後ろを振り向くと、みんなが「やったね」と祝福してくれる。ストライクをとった瞬間よりも、実は振り向いたときのほう方がその喜びが大きい。

つまり業績を残す=ストライクをとることも大切だけど、振り向いてみんなから拍手をもらうことが重要です。逆に成果を上げたのに全然評価されないと、非常に厳しい。たとえ皆から評価されなくても、誰か一人が評価してないと、なかなか私たちの心は保てない。ですから近年のように、メールやツイッターで流れるゴシップは、本当にちょっときついと思います。

【高城】まさにその通りですね。

【齊藤】批判するほう方が多いし、褒められても、本当に褒められているか不安なもの。でもけなされると、それを受け止めてしまう。だから本当に褒められると何倍も影響が大きい。本当は数人からしか批判されていないのにグサッときちゃうってことは、人間の心の弱いところですよね。

【高城】私たちの仕事で、「人を褒めるといい」と提唱していますが、皆、直接人を褒めるのは苦手なんです。目の前の人を褒めるのは、褒められるほうも、褒めるほう方も意外と慣れていない。そこで、お互いに背中を向けさせて、後ろ向きに相手を褒める「影褒め」ということをしています。

【齊藤】影褒め、ですか?

【高城】ええ。たとえば私が後ろを向いていて、後ろで相手が私のことを褒めている。そうすると、意外と嬉しい。つまり、アイツすごいって言われても大して嬉しくなくて、「アイツ昨日も実は夜遅くまで仕事をしていて、後輩が悩んでいたとき相談に乗ってあげていたけど、ああいう気配りはすごい」という具体的な場面を褒められると嬉しい。

逆に批判も同様に、本当のことを言われるときついんです。アイツ駄目じゃんと言われている分にはいいけれど、本当のことを言われると人間は傷つきやすい。だから批判というものはおぼろげなままで、具体的にそれを見ないほう方がいい。

【齊藤】具体的な批判は見聞きしないほう方がいいですね。

【高城】見たら自分が傷つく。そのうえで鈍感であり続けようとする。俺は鈍感だと自分で思い込んでいくことが一番いい方法だと私は思っています。