「ウォーターフロント(Water front)」のブランド名で、年間約2010万本もの傘を販売しているシューズセレクションの創業者である林秀信社長は、傘を愛し、究極の傘作りを目指している。同社のラインナップ500種のほぼ全てを林社長が企画してきた。その波瀾万丈の「傘人生」を追う。

700円の折り畳み傘が大ヒット

林秀信・シューズセレクション社長 宇佐見健=撮影

みなさんの家のどこかに「ウォーターフロント」というブランド名の折り畳み傘が、あるかもしれない。作っている会社はシューズセレクション。何しろ、この会社は年間約2010万本(2014年実績)もの傘を販売し、国内シェアは17%と日本一の傘メーカーなのだ。

最も売れ筋は、カラフルでコンパクトな折り畳み傘「ポケフラット」で、価格はなんと700円。2000年の発売当初は500円で、傘業界の関係者も驚いたという。安かろう悪かろうではない。この傘を企画・設計したシューズセレクション社長の林秀信(69歳)によれば、「品質は2000円以上の傘と同じ」。実際、大ヒットし、いまも売れ続けていることが品質の証明だ。

社名の「シューズ」は靴ではなく、林の名前の「秀」に由来する。林によるセレクションという社名のごとく、色・柄違いも含めた同社の商品ラインナップ500種類は、ほぼ全て林自身が発案し、企画している。傘1つでどうして、そこまでラインナップが生まれるのか。林は汲めども尽きぬアイデアや新商品開発を「源泉掛け流し」と呼ぶが、いくら作っても次々と湧いてくるのだという。

田園調布にある「傘の館」で、林は毎日アイデアを練る。いまでは本社にほとんど顔を出さない。経営は社員に任せ、林は傘の館で1人、これまで作った傘を眺めながら、新しい商品をイメージする。この館の窓は4枚ガラスで熱も音も遮断し、傘を保管する地下室は温度も湿度も一定に保たれ、24時間換気も万全。全ては傘のためだ。

「傘がうれしければ僕もうれしいんですよ。傘を1日中見ていると、次々にアイデアが生まれてきます。頭の中にあって、まだ実現できていない傘はたくさんある。傘作りは僕の天職なんです」

と林はうれしそうに語る。

ウォーターフロントは、コンビニ、ドラッグストア、本屋など街のどこかで必ず売っている。一般の傘は黒や紺、茶色など地味なものが多いが、ウォーターフロントはカラフルで派手な柄も多い。ポケフラットだけでもなんと250種類もある。取引先に対して、色・柄の異なる24~36本を1ケースとして、その中に6~12色をバランスよく配して納める「アソート販売」を行っているため、小売店の店頭も必然的にカラフルになる仕掛けだ。これも林のアイデアである。