(a)自分自身を元気づけるから (b)男性ウケがよいから
次第に赤みを増し、大きく膨らむ
チンパンジーのメスのお尻には、性皮と呼ばれる部分ある。人間の女の大陰唇に相当する。
この性皮が、35日間の月経周期のうちの約10日間続く発情期間に、次第に赤みを増し、大きく膨らんでいく。最終日が最も赤く、大きく、排卵が起きると、たちまち萎み、色も失われてしまう。
チンパンジーのオスはこの、赤く膨らんだ性皮に興奮するが、それもそのはず。メスの性皮が赤く、膨らんでいるときには妊娠しやすい。メスはその情報をきちんと伝えているわけだ。
そこで『裸のサル』で名高い、イギリスの動物学者、デズモンド・モリスはこの現象に注目した。人間の女が赤い口紅をつけるのは、チンパンジーのメスのお尻の信号を体の前に移したのだ。人間は直立したことで生殖器が隠れ、体の前面に性的な信号が必要となった。そこで口紅という人工のものを塗ることにした。
この考えはおおむね正しいのだが、もう少し丁寧に説明するなら、こんな具合になるだろう。
そもそも人間の女は、チンパンジーとは違い、妊娠しやすい時期であることを大々的にアピールしない。排卵期や排卵日は、本人にすらなかなかはっきりとはわからないものである。
とはいえ、人間の女の場合にも、よくよく観察すれば、その女が排卵期にあることの手がかりがある。肌の色が明るくなること、性的な関心がより高まり、性的に興奮しやすくなること、である。「性的に興奮する」だが、胸や首、顔などが赤らみ、やや膨らむことである。また、見えないところにも変化があって、小陰唇が赤らみ、膨らむ。
実を言うと、こういうふうに見え方には大差があるものの、チンパンジーのメスも人間の女も、妊娠しやすい時期の体の変化については同じような仕組みによっている。どちらの場合にも、女性ホルモンの代表格である、エストロゲンのレべルが上昇。それによって皮膚の下の血流が増すことによるのだ。血流が増すと、柔らかく、皮膚の色がよくわかる部分が、赤みを帯びるし、膨らむというわけなのだ。