「女性という生き物はわからない」──。ならば人間を一歩抜け出してみよう。霊長類の社会から人間を見てみると、「女も知らない女の性」が見えてくる。野生のゴリラと触れ合って研究を続ける霊長類学者と、脳科学者が徹底的に人間の女性について考えてみた。

【脳科学者 茂木健一郎】20年前、私は研究のためイギリスに2年間滞在しましたが、そこではすでに女性が強くなっていました。日本はバブルが終わった頃で、まだまだ男性がリードする側、女性はそれについていくというイメージでした。女性は男性に浮気されるのを心配していた。ところが最近になって学生の話を聞いていると、男のほうが彼女の浮気をいつも心配していて驚いています。

【京都大学総長 山極寿一】本来、男のほうが女々しいのです。日本では男性は女性を家から出さず、女性だけの閉じたコミュニティにしておくことでなんとかコントロールしようとしていました。

【茂木】動物の場合はどうでしょう。

【山極】哺乳類はゾウもシマウマもニホンジカも、普段はメスだけのグループで群れをつくります。オスは繁殖期にやってきて、交尾したあとは去っていく。だけど昼行性霊長類の群れは、繁殖期でなくてもオスとメスが常に一緒にいます。オランウータンは例外で、メスが単独で生活していることもありますが、そのほかの集団生活をする霊長類では見られない。単独のメスが存在しなかったり、メスだけの集団をつくらないというのは、集団生活をする哺乳動物たちの中にあって異質なわけです。体格の違いがあっても、メスが力を合わせれば、オスを集団から追い出すこともできる。しかし、それをしなかったということは、何らかの理由でオスを必要としたわけです。霊長類の中でもより人間に近い類人猿には、もう一つ不思議な特徴が加わります。一般的なサルの場合、メスは自分が生まれた群れから生涯離れません。おばあさん、お母さん、娘という血縁の近いメスたちが常に一体となって動いている。

【茂木】母系制の集団なわけですね。

(写真=Getty Images)

【山極】ところが、類人猿のメスは親元を離れます。血縁関係のない仲間を見つけて、新しいグループをつくったり、すでにある集団の中に入ったりして、交尾をし、子どもを産み育てる。類人猿のメスはいろいろなオスや集団を選んで、うまくコミュニティの中に溶け込むことができる。そういった特徴を、人間の女性も受け継いでいるのではないでしょうか。

【茂木】外国に行って、現地のコミュニティに飛び込んで、すぐに結婚したりするのも女性のほうが得意ですよね。

【山極】女性は雑談によってすぐに親しくなれます。男性の場合はまともに話ができるようになるまで、いろいろ回り道が必要になる。おしゃべりの能力が違うのです。