ゴリラのオスは気配りの達人
【茂木】類人猿は成長したメスが外に出ていくという話でしたが、ゴリラはメスがオスを選ぶそうですね。
【山極】そうです。ゴリラのオスは基本的に集団内に1頭だけです。単独生活者のこともあれば、すでにハーレムを形成しているオスもいます。そのオスのもとにメスが寄っていく。面白いのはメスが所属する集団を変えるときです。集団同士が邂逅したときや、単独生活者のオスを見つけたときに、「これは」という相手を見つけると、そのオスのもとにさっさと移ってしまう。その瞬間から移った先の群れにいる血縁関係にないメスやその子どもたちとの生活を始めるのです。チンパンジーの場合、メスはオスを選ぶのではなく、所属する集団を選びます。複数のメスと乱婚的な関係を持ちながら複数のオスが共存しているのがチンパンジーの群れです。オスの序列ははっきりしていて、なおかつそれが競争で入れ替わる。メスが集団で最も強いオスを相手に選んだとしても、そのオスが次の日には失脚するかもしれないわけです。
【茂木】ああ、目も当てられない。だから群れに嫁ぐという感じなんですね。
【山極】そうです。人間に近いアフリカの類人猿の社会構造はチンパンジーのように大きな集団か、ゴリラのように家族的な小さな集団かの2択です。ところが人間は家族という集まりを基本にしながら、より大きな共同体を同時に成立させている。人間は類人猿の中でも多産です。たくさんの子どもを産み、生き延びさせながら自分も生き延びる、そのためにこの二重の社会構造が生まれたのではないでしょうか。
【茂木】子どもを育てるのは大変なことですからね。ゴリラとチンパンジーは生殖においても違いがあるのですか。
【山極】ゴリラのオスは、メスが発情しない限り自分も発情しませんし、メスの発情を見抜く能力がないため、誘われるまで気がつきません。メスが発情すると歩き方からして普段と変わります。オスにそっと近づいて、顔をのぞきこんだりオスの肩や腕にふれたりする。そうかと思うと静かに立ち去り、少し離れたらふっとオスを振り返る。