【山極】類人猿であるゴリラやチンパンジーだと食事を分け合うことはあります。でも強いものが弱いものに対して食事を分けるというかたちです。チンパンジーは自分よりも上位の個体が食事をしているところに寄っていって食べ物をねだります。こうした食物分配は母親が子どもに口移しで行ったのが発祥でしょう。それが発展していくにつれ、この行為が社会関係の維持や強化に役立つということをどこかで学び、母親と子という関係以外でも行われるようになったのではないでしょうか。赤の他人と一緒に食事をする人間は食事をコミュニケーションの手段として発達させたといえるでしょう。
【茂木】初対面の人と会うときにも「軽く食事でもしながら」って言いますからね。
【山極】ゴリラでさえ親しいものとしか食物分配は行いません。ゴリラは大人が子どもに食べ物を分けてやるし、集団で移動し一緒に食事をとることもある。それが可能なのはゴリラ社会に個体間の序列がないからです。もちろん喧嘩が起こることはありますが、あまり大事にはならないし、それによって優劣が決まるということもありません。
【茂木】1頭のオスに対して複数のメスがいるときに、ゴリラのメスは嫉妬しないのですか。
【山極】実は結構あります。たとえば老練のメスと若いメスが同じ時期に発情したときですが、老練のメスのほうが力が強いから、先にオスに寄っていきます。オスは老練のメスと交尾したあと、今度はわざわざ自分から若いメスに寄っていって交尾する。終わるとまた老練のメスのほうへいく。
【茂木】ずいぶん忙しいですね。メスたちの機嫌を損ねないように必死になる。
【山極】だけど基本的には同じ群れにいても、メス同士はあまり干渉しません。
すごく仲よくなることもなければ、ずっといがみあっていることもない。家族のような単位でそれぞれの群れが独立しているので、今いる集団がいやになってしまえば、よそに移るという選択肢もあります。
【茂木】なるほど。人間だとなかなかそうはいかないでしょうね。
脳科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。
1962年、東京都生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。
霊長類学者・人類学者。京都大学総長。
1952年、東京都生まれ。京都大学理学部卒、同大学院理学研究科博士課程修了。カリソケ研究センター客員研究員、日本モンキーセンター、京都大学霊長類研究所などを経て2014年10月から現職。