大変なのは、生産現場だ。明菓・関東工場工場長の五十嵐進が言う。
「われわれは苦労してますよ(笑)。商品規模が読めない中、次々と新しい商品に対応しなければならない。切り替えが簡単にできるように配管を少なくし、パーツを交換すれば別の商品をつくれるように工夫しています」
明菓には工場が6つあるが、関東工場だけで年間約80種類の新商品をつくる。明菓全体では、フレーバー変更などのマイナーチェンジを含めると、400アイテム近い新商品をつくっている。1日にひとつ以上。当然、開発コスト、生産コストがかさみ利益率が低くなる。明菓の08年度の利益率(菓子と健康事業)は0.7%。原料高騰の影響を差し引いて考えても、極めて低い水準である。
現在の一般流通菓子市場には特異な現象が、もうひとつある。それは、何が売れるかわからないということだ。
清涼飲料の世界では、俗に1003つと言われるが、菓子の世界もこれに近い。たとえば、明菓には「きのこの山」と「たけのこの里」というロングセラー商品がある。きのこの発売が75年、たけのこが79年だが、この商品、08年に入ってから売り上げを20億円も伸ばしている。菓子マーケティング部長の片桐裕之が言う。
「もう、なんで売れるのか謎ですよね。調査しても、菓子の世界には顕在的な消費者ニーズというものが、ほとんどありません。売れる新商品をつくるには、お客様を満足させるだけでなく、『こうきたか!』と驚きやビックリを提供するしかないのです」
何が売れるかわからない一方で、ヒット商品には必要条件がある。それは、驚きにつながる新技術が投入されていること。そして、継続的に広告宣伝を打つことだ。フード&ヘルスケアカンパニー生産本部長の森宏史が言う。
「大ヒット商品の『ガルボ』があるでしょう。これ、実はものすごい技術が投入されているんですよ。ビスケットにチョコを含浸させる技術です」
「ガルボ」の箱には「噛むたびにチョコ染み出す不思議食感」とあるが、いったいどんな技術が投入されているのか。
「それはダメ。言えません(笑)。自動車や家電の新技術は注目されますが、菓子の技術ってほとんど注目されませんよね。ですが、菓子の新しいおいしさや楽しさを生み出すには、絶対に技術革新が必要なんです。技術力の裏付けがなければ、ヒット商品は生まれません」
含浸させるとは、つまり浸み込ませること。「ガルボ」の不思議な食感は、含浸技術が開発されなければ生まれなかったのだ。森が言う。