「仕事をおもしろくする、おもしろい仕事をつくる」

明治ホールディングス代表取締役社長<br><strong>佐藤尚忠</strong><br>1940年生まれ。64年慶應義塾大学経済学部卒業後、明治製菓入社。95年取締役に就任。常務取締役などを経て、2003年社長就任。就任当時から「強くておもしろい会社」づくりを目指す。09年4月より明治ホールディングス社長を兼務。
明治ホールディングス代表取締役社長
佐藤尚忠
1940年生まれ。64年慶應義塾大学経済学部卒業後、明治製菓入社。95年取締役に就任。常務取締役などを経て、2003年社長就任。就任当時から「強くておもしろい会社」づくりを目指す。09年4月より明治ホールディングス社長を兼務。

2009年5月27日に開催された、明治グループ2009~11年中期経営計画の記者発表の席上、明治ホールディングスの佐藤尚忠社長は「行動指針」のひとつとして、冒頭の一文を淡々と読み上げた。

この日は4月1日に経営統合を果たした明治製菓と明治乳業の、実質的な統合お披露目の日。明治製菓の佐藤社長がホールディングスの社長を兼任し、明治乳業の浅野茂太郎社長がホールディングスの副社長を兼任することになった。

佐藤社長のスピーチを聞きながら、普通、行動指針に「おもしろい仕事」という言葉は使わないだろうと思う一方、この日まで取材を重ねてきた明治製菓と明治乳業の印象にぴたりと合う言葉だと感じた。両社の社員には、実に楽しげな人物が多い。個々の社員が仕事をおもしろがっているイメージが強かったのだ。

「おもしろい仕事」とは、何だろうか?

リーマンショック以降、リストラの嵐が吹き荒れ、“1億総鬱状態”にあるわが国にあって、おもしろい仕事の創造を標榜する企業グループの存在は、一つの光明かもしれない。

明治製菓(以下、明菓と略)と明治乳業(以下、明乳と略)が経営統合の計画を発表したのは、08年、9月11日のことである。これまでにも両社の統合話は何度か持ち上がっているが、今回、“縁談”がまとまったのは、両社長の相性に負うところが大きい。同時期に社長に就任した2人は、まったく性格は違うが、互いに深く信頼し合える間柄だった。

「あうんの呼吸というか、魚心に水心というか……」(佐藤)

「一昨年、佐藤社長とお会いしたとき、両方からパタッと言い出したんです。そろそろやっちゃおうかと(笑)」(浅野)

08年3月期の連結決算を見ると、明菓の売上高が約4047億円、明乳が7069億円。合算すると約1兆1000億円。食品業界では、味の素の約1兆2000億円に次いで国内第5位。新たな1兆円超え食品メーカーの誕生である。

だが、市場関係者の多くは、この統合計画に疑問符をつけた。統合によるシナジー(相乗)効果が見えないというのだ。

明菓と明乳の源流は、1906(明治39)年、相馬半治らによって創業された明治製糖にある。明治製糖から明治製菓が誕生し、明治製菓の乳業部門が後に明治乳業として独立した。つまり、両社はそもそも兄弟会社の関係にある。

しかし、同根企業とはいうものの、健康食品分野で類似商品を生産している以外、事業内容は重ならない。使用する原材料が異なるから、仕入れの共同化によるコストダウンは見込めない。物流も、菓子は常温、乳製品は冷蔵か冷凍と温度帯が異なる。生産ラインもまったく重複するものがないから、統廃合によるリストラ効果は、ほとんど期待できない。