「わが社の創業以来のキャッチフレーズは、『買う気でつくれ明治』。技術屋の立場で言い換えれば、PBで安い物をつくって売ろうとするのではなく、絶え間ない技術革新によって新しい食感、新しい味覚を生み出すことで新しい市場をつくっていこうということ。われわれは、菓子づくりの技術に誇りを持っています」
森が言う通り、菓子のイノベーションを日頃意識することは少ない。しかも、デジカメの画素数のように、明確に提示できるものでもない。しかし、ヒット商品の背後には必ずイノベーションがあるのだ。そして明菓は、他の大手メーカーが次々とPBに手を出す中、ココア以外ではPBをつくっていない。
「菓子はパワーゲームの世界、資金力の世界だから、タイミングよく新商品を出せるか、どれだけ広告宣伝費をかけられるかが勝負の分かれ目です。明治製菓は新商品を出すタイミングが早いし、売れ筋商品には継続的に広告宣伝費をかける。明治製菓のマネジメントは、その必要性がよくわかっているんでしょうね」(某メガバンク食品業界アナリスト)
たとえば、「きのこの山」と「たけのこの里」は30年を超えるロングセラー商品だが、明菓はいまだにこの商品のCMを打っている。01年秋には、ウッチャンナンチャンによる「きのこ・たけのこ総選挙(どちらが好きかを投票する)キャンペーン」、現在は、木下優樹菜とEXILEのMATSUを起用した「あなたはどっち派キャンペーン」を展開中だ。
また、これまでガムを扱っていなかった明菓が社運をかけて開発した「キシリッシュ」のCMでは、パンツをプレゼントする「イキパン」キャンペーンを張った。前出の小村が言う。
「片桐がこの企画を持ってきたときは、おい、パンツかよって絶句しました」
「とにかくお客様を驚かせたかった。だからTシャツじゃなかったんですよ。もちろんデータの裏付けも取って、勝算はありました。イキパンは大成功のキャンペーンになりました」(前出・片桐)
CMは必要不可欠だが、金がかかる。明菓の利益率を引き下げる要因のひとつでもあることは、否めない。(文中敬称略)
※すべて雑誌掲載当時