今秋、80年にわたり東京都民の胃袋を満たしてきた築地市場が幕を下ろし、豊洲新市場が開場する。築地の約1.7倍の敷地に、水産仲卸、水産卸、青果の3棟が立ち並ぶ。豊洲は築地から直線距離にしてわずか2.3km。この数kmの移転をめぐって、市場関係者の間で不安の声が上がっている。
移転費用や移転に伴う廃棄物処理と原状回復を各事業者の自己負担で行うことへの反発は当然だが、11月7日という開場時期も大きな問題だ。開場日は運営・管理する東京都と業界団体が話し合って決めたとはいえ、昨年11月下旬に仲卸業者ら約140人が集まった有志団体「よりよい市場を築くつどい」の集会でも批判の声が一番強かった点だ。年末商戦を直後に控えた時期の移転だけに築地仲卸・大仲社長の今井稜輔氏は「不慣れな新市場で1番の繁忙期を迎えるべきではないし、買い出し人のほうも戸惑ってしまいます。都に翌年2月など閑散期に変更するよう要望します」と心配する。
しかも引っ越しに使える期間は、11月3日から6日までのわずか4日間。約900もの業者が関わり、1日当たり2700トンを超える商品を扱う世界最大規模の大市場が、この間に一気に移転しなければならない。運び出すのは、冷蔵庫や水槽といった大型の設備から事務用のパソコンなど様々だ。これらを撤去して輸送し、豊洲に設置し直すことになる。
さらに築地と豊洲の間には、2020年東京五輪の選手村や関連施設があって、工事車両と移転車両で大渋滞が予想され、4日間で移転作業が無事に完了するのか不安視する声もある。舛添要一都知事は、「議論してこの時期がベストと決めた。動かす予定はない」(昨年12月の会見)と明言している。
都が11月の開場にこだわる大きな理由は、東京五輪の会場に隣接する豊洲地区と都心を結ぶ環状2号線が築地市場内を貫通すること。その工事を五輪開幕までに間に合わせるためには、17年4月までに市場の解体を終えなければならないとされているからだ。11月のオープンは、逆算するとぎりぎりのスケジュールということになる。