大国の首脳たちが一目置くリーダーシップ

VWやドイツ銀行の経営危機で失速が懸念されるドイツ経済。そして世論の反発が強まりつつある難民問題。メルケル首相はこの危機を乗り越えられるだろうか。当面、厳しい局面が続くのは間違いない。しかし、退陣に追い込まれるようなことはないと見る。理由はメルケルに代わる強力なリーダーがいないからだ。日本の安倍政権と同じである。

西ドイツ初代連邦首相のコンラート・アデナウアー、欧州統合の先駆者である第5代首相のヘルムート・シュミット、その後を継いだ前述のコールなど、10年前後の長期政権を築くのがドイツのビジョン型リーダーのスタイルだ。コールに至っては戦後最長の16年にわたって首相を務めた。メルケル首相も間違いなく、その系譜に入ってくる。

アメリカの経済誌Forbesの「世界で最も影響力のある女性100人」でたびたび1位になっているが、オバマ大統領にしても、習近平国家主席にしても彼女のリーダーシップには一目置いている。プーチン大統領が最も信頼する欧州人は、ロシア語が堪能で自在にコミュニケーションできるメルケルだ。欧州政治においてもメルケルに代わるリーダーはいない。難民問題でもそうだが、ノブレス・オブリージュで、自己犠牲を惜しまずにヨーロッパを救おうとするドイツのような国がなければEUはまとまらない。少しでも油断したら極右や民族派が台頭して、EUの求心力が低下する時代はなおさらだ。

ウクライナ問題ではアメリカと一緒になってロシア制裁をしながら、イランの核開発問題やシリア・IS(イスラム国)問題などではロシアと連携を模索するという米ロの板挟み状況が依然続く中、EUとして有効なカードが切れないでいる。この状況を動かすべく、ビジョン型リーダーの“洞察”、意思決定できないアメリカの説得、というものをメルケル首相が示すべきときがきていると私は思っている。

(小川 剛=構成 市来朋久=撮影 AFLO=写真)
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