たとえば昨年には、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』が韓国で撮影された。韓国には映画産業への投資の30%を還元するインセンティブ制度があり、本作でも韓国政府は約3億円の助成金を支払っている。推計すると本作で韓国の産業現場には約11億円の投資が流入したことになる。また本作で韓国の受け入れ能力の高さが証明された。2019年には釜山市に総合映画センターが開業予定で、高度な撮影インフラの整備が進む。

一方、日本の体制は遅れている。いまや日本が舞台の物語ですら、日本では撮影されない。今年、遠藤周作原作、マーティン・スコセッシ監督の推定製作費5000万ドル(約60億円)の日本語時代劇『沈黙』の撮影が全編台湾で行われた。『沈黙』は数年前から日本でオーディションが行われ、撮影も模索されていたが、最終的に選ばれたのは日本の時代劇撮影所ではなく台湾だった。いま映画プロデューサーにとって政府支援の確約は不可欠な要素で、台湾政府はいちはやく支援の覚書を締結することでロケ地を確定させた。

世界の映画産業はパラダイムシフトに入っている。世界市場の変化だけでなく、消費者行動の変化により、100年の歴史をもつ映画の概念が根本から変わろうとしている。その中においても、日本では国際的な実務能力をもたない「映画村」の人間たちが、政府から税金を引き出し、利権を貪っている。人を育むことを無視した施策こそ、日本映画産業の国際的な発展を大きく妨げている。「国際映画祭」というひとつの事例をとってみても、産業に責任をもたない人間たちによって、無責任な未来がデザインされている。日本映画を次世代につなぐには、この利権構造との決別が急務である。

※1:公益財団法人 ユニジャパン|事業計画書・報告書
https://unijapan.org/about/projects.html
※2:米国映画協会のまとめによると、2014年の世界の映画市場は36.4億ドル。そのうち米国・カナダが10.4億ドル、中国が4.8億ドル、日本が2.0億ドル、フランスが1.8億ドル、イギリスが1.7億ドル、インドが1.7億ドル、韓国が1.6億ドル。

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