遠藤周作『沈黙』は国内での撮影を断念

日本映画のために本当に必要なことは、製作現場に投資を呼び込む枠組みづくりである。国際フィルムコミッショナーズ協会(AFCI)によると世界の撮影消費は880億ドル(約10兆5600億円)に上る。このため世界の多くの国では映画産業へのインセンティブ制度を用意している。これはその国で働く人の雇用と産業現場への消費の誘引に公的な助成を行う制度だ。補助対象は映画のみならず、テレビドラマ、アニメーション、ゲームなどにも広がっている。しかし日本は国際競争から取り残されている。東京都によると2013年に都内で撮影された映画の90%は国内プロダクションである。

「J-LOP」のように複数年度にわたる公的基金には、本来、投資の流れを変える力がある。たとえばイギリスでは、映画やテレビドラマだけでなく、アニメや子供向け番組にもインセンティブ制度を拡大した結果、導入から9カ月後には国内アニメ製作会社の仕事が300%以上も増え、これまで叶わなかった自社製作や共同製作も増加した。不運なことに、日本では公的コンテンツ基金が設立されても、こうした仕組みは取り入れられず、投じられた基金は継続性もなく消滅するだけだ。

日本の映画行政が基礎学習を終え、お利口になるまで、世界各国は待ってはくれない。東京国際映画祭は「アジア最大規模」を心の拠り所にしているが、第1回の30年前とは状況は大きく変わっている。

中国の映画市場は3年前、日本を抜いて世界2位となった(※2)。その後も成長が続き、今年は日本市場の約3倍の規模になると見込まれている。この巨大市場への進出を目指すため国際共同製作も増加している。同時に上海国際映画祭、北京国際映画祭、廈門国際アニメーション映画祭なども世界的な注目を集めている。

また韓国はアジアで最も映画館に行く人の比率が高い国だ。東京と同じ10月に開催される釜山国際映画祭も注目度が高い。これは「アジアのハブ」として機能する韓国映画産業の注目度とも関係している。