ドンキホーテホールディングスのカリスマ創業経営者、安田隆夫氏が経営の一線から退いた。業界の常識を無視した「異端児」が今や、既存の小売業大手を脅かす存在に成長した。それは、「安田隆夫」というカリスマの存在なしにはありえなかった。最愛の「わが子ドン・キホーテ」を手放した今の心境を、安田氏が激白した。
ドンキは「親離れ」をしなくてはいけない
《「深夜営業」「圧縮陳列」「手書きポップ」「『驚安の殿堂』の看板」──。唯一無二の業態を創造し、日本最大の総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」をゼロから1代で築き上げたカリスマ経営者の安田隆夫氏が、前期末の6月30日をもって、自ら完全引退を果たした。この7月から安田氏は、ドンキホーテホールディングスの「創業会長兼最高顧問」に就任している。これは代表権のない、さらには取締役会メンバーですらない名誉職だ。
同社の2015年6月期の売上高は6840億円(前期比11.7%増)、営業利益は391億円(同14.0%増)で、26期連続となる増収増益記録を更新した。株式時価総額も8353億円(7月31日終値)と、上場小売業では三越伊勢丹ホールディングスに次ぐ第7位にまで上り詰めた。
社業は絶好調なうえに、安田氏は経営者として脂の乗り切った満66歳。病気知らずの頑健な体にも恵まれ、気力、体力ともいささかの衰えも感じさせない。なぜこのタイミングでやめたのか、引退直後の安田氏に聞いた。》
――会長は、今回の自らの意思による早期引退を「勇退」とされている。なぜ今、あえて「勇退」だったのか。
【安田】私がこれ以上、創業経営者として君臨し続ければ、会社が私に、私が会社に依存する「共依存」の状態となり、組織が硬直化する恐れがある。だから思い切って勇退することにした。私の唯一の願いは、「わが子ドン・キホーテ」が30年先、50年先も隆々と繁栄し続けていること。そのためにも、ドンキは私から親離れを、私はドンキから子離れしなくてはならない。まさにその機が熟したということだ。