日本の生活から学ぶ「シンプルであること」
来日して5年近く経ちますが、日常生活の「衣」「食」「住」を通じて「シンプルであること」の良さを学びました。日本では「衣」「食」「住」が自然と共生しています。素材を生かし、組み合わせて自然と調和する工夫がなされています。
まず「衣」ですが、これからの季節、花火大会や夏祭りなどに出かけると老若男女を問わず浴衣姿を見かけます。私も温泉に入った後などで着たことがあります。浴衣は素材とつくりがシンプルであるがゆえに丈さえ調整すれば誰でも着られます。コンパクトに収納でき、機能的にとても優れていると思います。色や柄も多様で、用途も広く、部屋着にとどまらず夕涼みに着て行けます。文化の違いではありますが、洋式のバスローブは用途は似ていても外で着て歩けません。衣類として非常にシンプルな浴衣のパフォーマンスは高いと思います。
「食」についてはどうでしょう。私自身、料理好きですし、週に一度、家族とピザを作り食べる事を楽しみます。和食も大好きで、素材そのものの良さを引き出したおいしさを実感します。炊きたてのご飯は甘みがあり、お惣菜がなくてもおいしく食べられます。いつも思わずおかわりしてしまいます。素材の良さが表れるピザのマルゲリータと似ていて、私にはなくてはなりません!
和食では、多様で新鮮な食材をその持ち味を活かして味付けし、栄養バランスを保ち、見た目も美しく盛り付けることが重視されます。料理でありながら、自然の美しさや季節の移ろいまでも表現し、年中行事とも密接につながっています。「シンプルであること」の良さを最大限に引き出しており、日本人の伝統的な食文化として無形文化遺産に登録されたのもうなずけます。
「住」については、私はマンション住まいなので日常生活で実感することはありませんが、日本の一戸建ての約9割を占める木造建築は、この国の風土に合っていると感じます。世界に類を見ない地震国であるにもかかわらず、木造建築が多いということに最初は驚きを隠せませんでした。ところが、京都や奈良を訪れた際、4階建てビルに相当する木組みの舞台や、1300年以上前の木造建築を目にしました。すばらしい技術水準です!現存する最古の木造建築の1つであること、類まれな建築技術・技能、さらには様式美。壮大な仏殿までもが木造です。森林資源が豊かな国だからこそ、こうした文化・技術が発達したのでしょう。木は温もりがあり、肌触りが良く、見た目も美しい建築材料で、素晴らしい住空間を提供してくれます。そうした木造建築のもつ、素材や構造のシンプルな質の高さが日本人の心を育んできたのだと思います。