おカネを払って男らしさを獲得

私は修士論文を書くためにキャバクラのほかにもホステスクラブ(以下クラブ)でホステスとして働いたことがあります。クラブで強烈な印象を受けたのは「男らしさと女らしさが際立って演じられる場所」ということです。会社では男女とも同じ仕事をしていますが、クラブでは、男性はひたすら男らしさを褒められ、ホステスさんは褒めまくるのが役割になっています。おカネを払うことで、男らしさを獲得しにきているともいえます。

普段は男らしさを意識しない男性でも、クラブに足を踏み入れた途端に変わるもの。ソファにゆったり座り、動作も余裕を感じさせる仕草になります。ホステスさんは存在感を控えめにしますから、男女の差を際立たせる舞台装置が整っています。

男性がそういう場所に集団で来るとますます男らしくふるまおうとします。アメリカの社会学者のイブ・セジウィックが、「男の人は男性集団の中で、ほかの男性たちから男らしいと認められることで、自分の男らしさのアイデンティティを確立していく」と言っているように、「おまえは男らしい」と互いに認め合う中で、異性のきらびやかなホステスさんが隣にいると、その意識がもっと強くなるのではないでしょうか。

そんな空間でグチなど言ってしまうと、たちまち男らしくなくなってしまいます。ある大企業の支社長が数人の部下と来店されたときのことです。当然のように真ん中に座った支社長が男らしく振る舞い、気分よく楽しめるように、部下の方が雰囲気を盛り上げようと努力しているのがよくわかりました。そうすることが前提になっている暗黙のルールがある席で、グチを言うなど御法度といっていいのでしょう。