国会の審議の行方はともかく、国際競争力の問題からいっても法人税の引き下げは待ったなしである。いわゆる実効税率が40%から35%へ引き下げられる方向だが、本来なら、もっと早期に下げるべきだったろう。

ところで、法人税率の引き下げが減益の要因になるといったら、違和感を覚えるだろうか。そのカラクリを紐解くためには、まず「繰延税金資産」について知る必要がある。

たとえば、A社がB社に対して100億円の貸付金があったものの、業績不振で回収の見込みがなくなったとしよう。A社は貸借対照表(B/S)で資産の欄の貸付金100億円のマイナス項目である「貸倒引当金」を100億円計上する。また、損益計算書(P/L)には営業外費用ないしは特別損失として、同じ100億円だけ貸倒引当金繰入を計上する。その結果、会社の税引き前利益は100億円減るわけだ。

しかし前回の連載で見たように税務会計上では、実際に回収不能になるまで費用として認められないことがあった。もし、全額認められずに実効税率が40%であったならば、「100億円×40%=40億円」法人税が課せられることになる。会社としては「この100億円は回収できないから損失なのに……」と思っても、税制上のルールに従って納税せざるをえないのだ。

さて、翌々年、B社が業績悪化などで破綻し、実際に100億円が貸し倒れになってしまったらどうなるだろうか。

すでにA社はP/Lに貸倒引当金繰入100億円を計上しているので、税引き前の利益が影響を受けることはない。しかし翌々年の法人税の申告書上は、回収できないことが確定したことで、ようやく損金として算入できる。

その結果、仮に利益が500億円なら、ここから100億円を引いた400億円が法人税の課税対象になる。つまり、回収不能になった100億円の分である「100億円×40%=40億円」だけ実質的に法人税が軽減されるのと同じ。そのときA社から見れば、2年前に納めた法人税40億円が後になって戻ってくるイメージだ。

しかし、そもそもA社もそれなりの根拠があって貸倒引当金を計上したのだから、40億円を納税した段階で「今は納税するものの、この40億円はいずれ戻ってくる」と考えるのが自然だろう。そこでA社はこの40億円を“将来戻ってくる会社の資産”として位置付ける。

貸付金の回収が難しくなったときの決算書への影響

貸付金の回収が難しくなったときの決算書への影響

具体的には、貸倒引当金の計上と同時に「繰延税金資産40億円」としてB/Sの資産の部に計上する。また、P/Lでは法人税の負担を差し引いた後に、損失が確定したら戻ってくるはずの40億円分だけ「法人税等調整額」として法人税の費用を一部取り消し、税引き後利益が目減りすることを防ぐ。

肝心の法人税率引き下げの問題だが、税金を納めたときの税率が実効40%で、翌年、「その次の年に実際に回収不能となるまでの間」に実効税率が35%へ引き下げられたらどうなるか。

税金は35%分しか戻ってこないことになる。そこでA社は繰延税金資産を「100億円×(40-35)%=5億円」分減らす必要がでてくる。さらにこの分は取り戻せないので、法人税等調整額として5億円だけ翌年の費用に計上しなければならない。これが法人税率の引き下げが減益につながるカラクリである。

貸倒引当金が多い銀行や、回収が困難な売掛金を持つ企業などは、同様のことが起きる可能性がある。そうはいっても、法人税率の引き下げが減益の要因になるのは一時的なもの。長期的には税負担軽減という恩恵のほうが大きいだろう。

(構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)