多くの人が家計簿をつけてもお金持ちになれないのはなぜか。公認会計士・税理士の柴山政行さんは「家計を単なる消費の場と捉えているうちはお金持ちになれない。新たなキャッシュを生み出す場に捉え直す必要がある」と説く。一体どういうことか。学びのサイト「プレジデントオンラインアカデミー」の好評連載より、第1話をお届けします――。

※本稿は、プレジデントオンラインアカデミーの連載『仕事ができる人、儲かる人は知っている お金を生む発想力を鍛える「会計思考」入門』の第1話を再編集したものです。

財布から出した少ない硬貨を見る男性
写真=iStock.com/takasuu
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「会計思考」と「家計思考」との違い

私が人生を豊かにしていくうえで重要だと考えている「会計思考」を言い換えると、「バランスシート思考」になります。このバランスシートとは、会計における「貸借対照表」のことを指します。一方、多くの人が無意識のうちに身に付けていて、会計思考の対極に位置するのが「家計思考」です。そうした家計思考の人で、家計の管理でよく活用しているものが「家計簿」なのです。

家計簿は、今月の収入がいくらあって、今日は食材でいくら使い、衣服を購入するのにこれだけの出費があっただとか、お金の「入りと出」をチェックしながら残金を把握していきます。そして、「使いすぎだから、少し節約しなくては」などと、家計の調整を図っていくものです。そのベースになっているのが、「収入として得たお金は、生活のための消費に回すもの」という消費を主体とした考え方であり、家計思考は「消費思考」と言い換えることができます。

そして、家計思考の人たちが家計簿とは別に、「わが家の財産」を把握しようとしたときに作成するのが「財産目録」です。貯金、住宅、自動車など身の回りにある金銭的な価値のある財産を一覧表の形でまとめていきます。

そこに記載された貯金は何か新たなものを消費するために残しておいたお金であり、将来の収入をあてこんだローンで手に入れた住宅や自動車は、日常生活で消費する「消費財」でしかないのです。この財産目録にも、「消費」という考えがベースに存在していることがわかります。

バランスシートは左側の「借方」に「資産」が、右側の「貸方」には「負債」と「純資産」が示されます。先ほどの財産と資産は同じものではないかと思う人がいらっしゃるかもしれません。でも、会計思考では、資産を「新たなキャッシュを生むもの」と考え、主に消費財である財産とは別ものと捉えています。そして、自分の持ち分である純資産や、金融機関などからの負債の形で調達したお金を有望な資産に投じていきます。そうした「投資思考」が会計思考のベースにはあり、消費思考でもある家計思考とは大きく異なるのです。

「会計思考」とは何か?

30万円のパソコンで年収を100万円アップ

こう考えたらイメージしやすいかもしれません。同じ30万円のパソコンを購入したAさんとBさんがいました。Aさんはネットサーフィンをしたり、オンラインショッピングを楽しんだりするためにパソコンを購入しました。一方のBさんは、eラーニングによるリスキリングで自分の能力を高め、いまよりもいい年収を得られる会社へ転職するために購入しました。

3年後、Aさんは同じ会社に勤め続け、年収はほとんど変わりません。その一方で意中の会社に転職したBさんは、年収の100万円増を得られるようになりました。Aさんのパソコンはあくまでも消費財であり、キャッシュをもたらしてはくれませんでした。

しかし、Bさんはパソコンという資産の購入に30万円を投資することで能力アップを実現し、年収の100万円増を達成できたのです。その増えた分の年収が貸方の資本の増加につながります。そして、それを元手に今度は株式に投資するなどして、新たな利益を得る算段をすることもできるようになります。

将来のキャッシュインを見込んだものが資産であり、何の収益ももたらさないものが財産なのです。財産目録を作成する家計思考にとどまっている限り、その家計は「非営利団体」と同じようなもので、得た収入を右から左へ消費していくだけです。時には「浪費」というムダ遣いをして、家計を苦しめることもあるでしょう。そうした意味でも、新たな利益をもたらしてくれる資産に投じていく会計思考への転換が重要になってくるのです。