なぜ台湾には親日の人が多いのか。その理由の一つに、台湾の教科書に載っている日本人男性の存在がある。小学校教諭で銅像教育研究家の丸岡慎弥さんの著書『銅像が教えてくれる日本史』(扶桑社新書)より、一部を紹介する――。

広大なダムを見つめる日本人男性の銅像

今回、紹介するのは日本国内の銅像ではありません。台湾にある八田與一という日本人の銅像です。

何か考え事をしながら、遠くを見つめる八田。見つめる先にあるのは烏山頭ダムです。八田の銅像はその広大なダムに比べるとあまりにも小さい……。それも正装をしているのではなく、どうやら毎日袖を通していたと思われる作業着を着用しています。そう、八田はこのダムの建設者です。銅像のポーズのように、考えに考え抜いて、このダムを完成させたのでした。

八田與一の銅像。八田與一と妻外代樹の墓。台湾台南市烏山頭ダム
八田與一の銅像。八田與一と妻外代樹の墓。台湾台南市烏山頭ダム(写真=ellery/GFDL/Wikimedia Commons

戦前に作られた銅像ですが、なぜか戦後に八田の銅像は姿を消しました。銅像を隠したのは、なんと台湾の地域農民でした。

台湾の人々から愛されている理由

台湾では戦後、蔣介石率いる中国国民党の軍隊が入ってきて、日本時代の人物をあがめることなど絶対にできない雰囲気になってしまいます。しかし、この地域の多くの台湾人が八田與一の業績に敬服しており、時が来る日までこの銅像を隠し、こっそりと保管していたのです。後年、この銅像は今の場所に戻されることになりました。

なぜ、八田はこれほどまでに台湾の人々から愛され、慕われているのでしょうか。

それは、実は八田がこの烏山頭ダムを建設することによって、この平野を台湾一の穀物収穫量に導いているからです。