調理が楽しくなる道具とは
毎日使うものだからこそ、キッチンツール選びは難しい。炒め物や煮物で活躍するヘラもそんなツールの一つ。
鍋の中で素材を混ぜやすいか、そうでないか。完成した料理を皿によそいやすいか、そうでないか。お手入れがラクかどうか。長持ちしそうかどうか。同じような形状のヘラでも重さや素材、サイズが少しずつ違い、選ぶのに苦労する人は多いのではないか。
木柄のシリコーンスプーンシリーズ:
(左)「木柄 シリコーン スリムスパチュラ」690円
(中)「木柄 シリコーン ターナースプーン」790円
(右)「木柄 シリコーン 調理スプーン」790円
柄の長さや厚さが違えば、持ちやすさが変わる。素材が違っても、扱いやすさや耐久性が変わる。一見ささやかな違いが、くりかえし使っていくうちに料理が楽しくなることへつながることもあれば、逆に苦手意識へつながる場合もあり得るのが、キッチンツールの難しいところだ。
そんな中、台所の担い手の間でとても評価が高いのが、無印良品のシリコーン調理器具シリーズである。シリーズの商品にはもちろんヘラ(スパチュラ)もあるが、特に注目を集めているのはヘラ代わりに鍋でかき混ぜる際に使え、器によそう際にも重宝する「シリコーン調理スプーン」である。
料理家やレシピ本編集者の中には、「ヘラを選ぶなら、これ一択だよ」と主張する人までいる。SNSにも「スプーンが絶妙な深さと角度で、料理をすくいやすい」といった喜びの声が、投稿されている。そこで、無印良品を展開する良品計画生活雑貨部でハウスウエアの開発に携わる野瀬知美さんに、シリコーン調理スプーンを含むシリコーン調理器具シリーズについて聞いた。
なぜ前年比170%も伸びているのか
「シリコーン調理器具は2024年9月~2025年2月の秋冬シーズンに品ぞろえを見直し、ナイロン素材だったターナー(フライ返し)やレードル(お玉)もシリコーン素材に切り替えるなどしました。現在、サイズ違いなども含め22種類を展開しています。品揃えの見直しを行い、新商品が追加になったこともあり、2024年の秋冬期は前年同時期に比べて売上金額が170%増となり、25年の秋冬も2024年に比べ120%の見込みと大きく伸長しています」と野瀬さん。
最初に、無印良品でシリコーン調理器具を発売したのは2006年で、スパチュラ(ヘラ)だった。シリコーン調理スプーンは、ジャムスプーンとスクレーパー(食材や汚れをはがし取るヘラ状の道具)と同時で2009年の発売。
当時、シリコーン素材に注目した理由を、野瀬さんは「よく売られているのはナイロン製やステンレス製のキッチンツールでしたが、調理器具を傷つけてしまう、鍋底に残った料理を最後まですくいきれない、といったお悩みを抱える方が多かった。適した素材を探す中で、耐熱性、弾力性に優れたシリコーンに行き着きました」と説明する。
2000年代半ばはル・クルーゼの鍋が流行した時期。ステンレス製のヘラを使うと、ホーロー製のル・クルーゼは鍋の中をうっかり傷つける恐れがあった。また、フッ素加工したフライパンでも同じく、コーティングした樹脂を傷つける可能性がある。ステンレス製のキッチンツールは、錆びにくくゴシゴシこすって洗え、長持ちするので今でも愛用者は多いが、繊細な道具とは残念ながら相性が悪い。