下手な外食より新鮮な魚で自炊
あなたは月にいくらぐらい外食に使っているだろうか。総務省の家計調査によると、近年の2人以上世帯の外食費は1万6000円ぐらいで推移している。少し気取った店で夫婦で飲食すると1回でなくなってしまう金額だ。安い店でも毎週は行けないだろう。
飲食店の原価比率は3割が目安と言われている。消費者としては、食材の3倍以上の価格を調理その他のサービスに支払っていることになる。好きな飲食店をたまに訪れるのは人生の喜びだけど、普段の生活の中でおいしいものを食べたいのであればお得な食材を吟味して自炊するに越したことはない。
「うちで丸魚を買って行くお客さんにはそういう人が多いですよ。下手に外食するよりも断然お得ですから。鮮度と下処理(内臓や血を取り除いて料理できる状態にすること)には定評がありますし、獲れた場所や輸送方法もお伝えできるので安心なのだと思います」
鎌倉にある鮮魚店「サカナヤマルカマ(以下、マルカマ)」は鹿児島の阿久根や地元である小田原の漁港から直送された天然魚だけを扱っている。ときにはスタッフが近海で釣って来た魚が店頭に並ぶことも。同店で企画・広報を務める狩野真実さんは、「日常の中のハレ」としての魚料理を提案している。確かに、下手な外食をするよりは新鮮な天然魚を買って自宅で食べるほうがはるかに楽しくてお得だ。
バター焼きで食べられるために生まれてきたような魚
この日のマルカマには、赤みがかったオレンジと黄色に黒いラインが1本入った魚が並んでいた。運気が上がりそうな外見の魚だ。大きいほうは1匹2000円。見知らぬ魚なので、高いのか安いのかわからない。
「ヨコスジフエダイだね。フエダイには何種類かいて、沖縄ではすべて『ビタロー』と呼ばれている。バター焼き定食があるぐらいメジャーな魚だよ」
元水産庁職員でマルカマのアドバイザーでもある上田勝彦さんは全国各地の魚食文化に精通している。各地域で季節ごとに獲れる魚には、その特性をくんだ郷土料理があるという。ヨコスジフエダイは丸ごと「沖縄風バター焼き」にするのが正解らしい。
「加熱しても身が固くならないので、外をカリッと焼いても中はしっとりしたままだよ。うまみはあるけれど、ちょっとコクが足りない。これは南方系の魚に共通する特徴だね。だから、油やバターでコクを足してやるとバッチリ仕上がるよ」
魚をできるだけ一匹丸ごと買って、複数の料理を作って味わってきた本連載。1魚種1料理なんて初めてだけど、上田さんが「この料理のために生まれてきたような魚」とまで言うならバター焼き1本勝負でやってみよう。