全員を巻き込む月曜日の驚き

資生堂社長 魚谷雅彦

2001年10月、47歳で日本コカ・コーラの社長になり、2つのプロジェクトに着手した。一つは、全社員への「こころざし読本」の配布だ。真っ赤な表紙を付け、社員一人一人の名前を刻印した。開くと、会社がどういう方向へ向かおうとしているのかの説明があり、企業の社会的責任や法令の遵守など、全員に意識していてほしいことが書いてある。

何か、社員の創造力を引き出すものがほしかった。コーラなど商品の配送や自動販売機の詰め替えは、地域ごとのボトラー社の計2万3000人が、受け持ってくれる。では、500人余りの日本コカ・コーラの役割は何か。商品の企画や開発、宣伝、販促などのマーケティングだ。そこでは、2万3000人の仲間たちの期待に応えるべく、意欲的な発案が不可欠。読本の中身をどうするかで、幹部たちと合宿討議も重ねた。

ある日曜日、制作に関わったメンバーが密かに出社し、赤い表紙の読本を、社員たちの机の上に置いて回る。併せて、コカ・コーラの瓶の形を模したマウスを、全てのパソコンにつないでいく。月曜日の朝に出社した社員たちは、自分の名前が刻まれた読本と主力製品を象ったマウスを目にして、驚き、歓声を上げた。

こだわったのは、会社の「押しつけ」にはしない、との点だ。大学を出て、いくつかの会社で得た経験から、大切なのは「関係する全員を巻き込む」「部下たちの潜在力を引き出す」ことにある、と確信していた。だからこそ、読本にそれぞれの名前を刻み、「あなたは、あなたらしく、自由な発想を」とのメッセージを込めた。