42歳商社マンはゆるキャラ体験で洞察力アップ

私がゆるキャラ体験によってもっとも磨かれたもの、それは観察力・洞察力である。

ゆるキャラは周囲の音が聞こえにくいので、自ずと視覚が鋭敏になってくるのだ。

親に背中を押されながら、もじもじと近寄ってくる子どもが何を求めているのか、握手したいのか、頭を撫でてほしいのか、密着感を求めているのか、などを見抜いて、ニーズに応える。

いわば“気づき”が養われるのである。

「企業は、教育研修で新入社員が全員ゆるキャラに入るメニューを設けるべき」と言うのはAさん(42歳男性・商社課長)だ。最近、仕事の付き合いでやむをえずゆるキャラに入ったというAさんは、当時の経験を次のように語った。

「嫌々入ったので、最初は適当に手足を動かしていただけでした。それでも子どもや若い女性からキャーキャーと言われ、ぎゅーっと向こうのほうから抱きついてくる。中に入っているのは、実は、こんなおっさんでゴメンね……という罪悪感がありましたが、40年以上生きてきて、こんなに人からハグされた経験は初めて。ピュアな瞳で駆け寄る子供たちに心打たれ、自分なりにキャラにふさわしい動きを即興で考え、『いっぱい写真撮って』と心の中で叫ぶ自分がいました」

▼仕事では味わえない達成感
あるキャラの内部から撮影したもの。口などからかすかに光が入り、外の様子も少しだけわかるが、厳しい労働環境。それでも、キャラに“憑依”すると、自然とサービス精神が高まる。

人生初の「人気者」体験。それに有頂天になりながらも自分のまわりに輪ができることに、ある種の責任のようなものを感じ、キャラを脱いだときは、自分の役割を果たせた達成感と爽快感、そして人の役に立てたという手応えを感じたという。「あんな気持ちは仕事でもなかなか味わえません」(Aさん)。

私もゆるキャラに入っているときは、「他人が何を思い、感じているか」を常に考えている。

音がよく聞こえないので、他人の動作や表情を冷静に読む癖がつく。そして特に入ることが多いパンダのキャラは手足の可動域が狭く、歩きにくいので、次はどう動くのが優先事項かを熟考してから実行に移さなければならない。

また、前述したように、ゆるキャラは声を出してはいけないので、サービス精神を表現できるのは身体を使ったアクションだけだ。この限られた条件で、何をすれば最大限にコミュニケーションがとれるのかを考える。脳も活性化されていると感じる。

「偶然かもしれませんが、ゆるキャラ体験後、仕事能力が高まり、上司や顧客の評価も上がりました。すべてのビジネスマンはお金を払ってでも体験すべきだと思いました。新入社員はもちろん、管理職の研修にもゆるキャラ体験は大いに役立つと思います」(Aさん)。ゆるキャラはビジネスマンの“気づき”とコミュニケーション力の向上にも大いに役立ちうそうだ。