データを完全に削除するのは難しい

メガネと縁が切れたと思ったら、今度は宝飾関係のイベント案内が頻繁に来るようになった。そのころには、ブックフェアもメガネ会社も案内メール発送をPR会社に外注していること、ファクスはコンピュータによって自動送信されていることもわかっていたから、私はPR会社に電話して「メガネだけではなく、ブックフェアも含めて、すべての資料がいらないので、私の番号を削除するように」と頼んだ。応対した女性はここも丁寧だったが、ファクスはやはり止まらなかった。

今度はIT関連イベントの資料が送られてきた。またしつこく電話すると、担当者が「すべてのリストから番号を削除したはず。いまチェックしたが、リストにあなたの名前はない」と言っているわきから、「ちょっと待ってください」と別の部門の担当者が出てきて、「私の手違いでファクスを送ってしまった。申し訳ありません」と恐縮して答えた。削除されたはずの私の番号は、実際には「削除」されたわけではなく、「削除ファイル」のフォルダーに「保存」されており、そのデータを他部門の担当者が流用していた。

以上は広報用資料を送付する番号の話で、ファクス用紙を無断で使われる程度の実害しかない。しかし、いったん記録されたデジタル情報を削除するのがいかに大変かという一例である。

たとえば、一時購読していたメルマガの登録を取り消しても、別のメルマガが自動的に配信されてくる経験をした人は多いはずである。もちろんそのメルマガの解除手続きをとれば、それは購読中止になるが、また別のメルマガが送られてくる。メルマガはファクスに比べればもっと実害がない。読まずにまとめて削除すればいいから、受け手の側でも、いよいよ頓着することは少ないだろう。ビッグデータ解析でターゲットを絞った広告が次々と、それも無断で送られてくる昨今、こんなことに目くじら立てる人は少ない。

そのことがまた別の用途にも使えそうなデータをきちんと削除する企業側の意欲を薄めているが、いくら便利だからと言って、データの使い回しはしないというけじめが、やはり大事である。

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