筆者は2007年、最高裁判所の取材のため、長官の公邸へ出向いた。司法のトップはどんなところにお住まいか、この目で確かめたかったのだ。
それは都心の閑静な住宅地にあった。和の雰囲気漂う立派な邸宅。正門の写真を1枚撮っておきたいと、守衛として立っていた警察官に尋ねてみたところ、「警備上の都合」であっさり断られ、逆に不審人物として職務質問を受けてしまうことに。仕方なく、敷地周辺の塀などを撮影して帰ってきたものだ。
欲しかった最高裁長官公邸の門の画像は、現在、インターネット上に無料で公開されている。ネット検索でおなじみ、米グーグル社が作成したストリートビュー(以下、SVと略す)のサービスが、08年8月より国内の主要都市に関して始まったからだ。SVとは、数メートルおきの地点ごとに、公道上から実際に撮影された360度のパノラマ画像を、地図などと組み合わせて自由に閲覧できるようにしたシステム。たとえば、初めて足を運ぶ待ち合わせ場所の下見代わりには、便利といえるかもしれない。思い出の場所が現在どうなっているか、クリックひとつで眺めにいくのも一興だろう。
ただ、世の中の景色を手当たり次第に呑みこみ、全世界の人々に共有させてしまうSVは、「すごい」「面白い」と同時に「マズい」「怖い」ともいえる。公開されている画像は、駅前などの公共の場だけではないからだ。SVのカメラは、住宅街の細い路地にも入り込んで、そこに見えるものすべてを記録、データ化してしまう。「自宅がいつの間にかネットで公開されていて気持ち悪い」という声が噴出しているのも当然の成り行きだ。
また、通行人が道ばたで転倒している瞬間などのSV画像を収集して面白がるような輩もいる。画像に写りこんだ通行人の顔には、ボカシが入るよう編集されているが、不完全だ。運悪くそのまま公開されている気の毒な人も少なくない。