理念を具体的な行動に落とし込む
しかし、抽象的な理念も、突き詰めていけば必ず具体化が可能です。ディズニーの理念「We Create Happiness」も抽象的であり、具体的な行動に関しては何も触れられていません。しかし、ディズニーのキャストは「ゲストにとっての幸せは何なのか」、「どうすればゲストは幸せを感じるのか」と考え、具体的な行動につなげています。
たとえば「ジャングルクルーズ」というアトラクションでは、ゲストが乗り降りするときにキャストが軽く手を添えてくれます。これはゲストを安全に導くことがしあわせにつながると考えたからです。
ショップでは、ほとんどのグッズをゲストが直接触って確かめられるようになっています。このやり方を「ソフトセル」といいます。ショーケースに入っていれば、ゲストはわざわざ店員を呼んで開けてもらわなくてはいけませんが、ソフトセルなら商品を直接確かめられるので、自分のペースで買い物することができます。これもゲストのしあわせを突き詰めて考えた結果です。
表からは見えない仕事も例外ではありません。どのような職種でも、理念を具体的な行動に落とし込むことはできます。私は飛行機の荷物を受け取るターンテーブルを見て、その思いを強くしました。
外国の某航空会社のターンテーブルでは、スーツケースの車輪が外側に向いた状態で荷物が流れてきました。顧客の側からは取っ手に手が届きにくく、車輪をつかんで無理やり荷物を下ろしているおじいさんもいました。
ANAのターンテーブルは違いました。すべてのスーツケースの取っ手が顧客側に向いた状態で流れてくるのです。ANAの行動指針の中に、「常にお客様の身近な存在であり続けます」というものがあります。キャビンアテンダントなら、この理念は実践しやすいでしょう。一方、ターンテーブルに荷物を載せるのは裏方の仕事であり、作業員が顧客と直接顔を合わせることはまずありません。それでも作業員たちは「お客様にとって最高の価値とは何か」と考え、取っ手を顧客側に向けました。このようなちょっとした気配りが、理念を具体的な行動で示すということなのです。
ふと気になってJALのターンテーブルを見に行くと、こちらも取っ手が顧客側を向いた状態でスーツケースが流れてきました。私は日本企業の底力を見たようで、とてもうれしく思いました。
話を戻しましょう。自社の理念は、どのような職種や職場でも具体化できます。「顧客と接しないから」、「裏方の仕事だから」というのは言い訳に過ぎません。突き詰めて考えていけば、いまの仕事でやれることは必ずあるはずです。