実際の行動を支える理念と仕組み

ディズニーではどうして未曾有の震災に対して迅速かつ柔軟な対応をすることができたのでしょうか。背景にあるのは、「理念」と「仕組み」です。

ディズニーには「SCSE」(Safety=安全、Courtesy=礼儀正しさ、Show=ショー、Efficiency=効率)という行動基準があり、各要素が優先すべき順に並んでいます。これによると、もっとも優先すべきは「安全」で、「ショー」は3番目です。このように企業として大事にすべきことが明確になっているので、現場のキャストは売り物のお菓子を配ったり、普段はゲストに見せてはいけない段ボールを配るという判断を下せました。

理念を具体化するには、仕組みも大切です。ディズニーは、「10万人の来園者がいるときに震度6の地震が起きたら」という想定のもと、綿密な避難計画を立てています。この仕組みがあったからこそ、ゲストを適切に避難所に誘導して、非常食を提供することができました。

理念と仕組みの2つに加えたい要素がもう一つあります。それは「行動」です。震災の日、キャストが「安全が大事だけど、上から指示を受けたわけじゃない」と逡巡していたら、どうなっていたでしょうか。たとえ「安全を第一に考える」という理念を掲げていても、それを唱えるだけで安全は実現できません。キャストが具体的な行動を起こして、はじめてゲストの安全は現実のものになりました。

避難計画という仕組みも同様です。実行されない計画は、中身がどんなに立派なものでも無意味です。ディズニーは、年に延べ180回の防災訓練を行っています。繰り返して実際に身体を動かして訓練したからこそ、いざというときにも慌てずに避難誘導ができたのです。

顧客に感動をもたらすには、自社の理念を明確にして、それを具体化するための仕組みを整える必要があります。ただ、それらが整ったからといって、感動が勝手に生まれるわけではありません。理念の明確化や仕組みの整備は、顧客に喜んでもらうための準備に過ぎません。準備したものを実行・実践してこそ、理念は現実のものになります。

自社の理念を実行に移せというと、「理念が抽象的なので、自分の仕事でどのように具体化すればいいのかわからない」と質問されることがよくあります。
理念は抽象的に表現されている場合が多く、通常、そこに具体的な指示は含まれていません。そのため理念を具体的な行動に落とし込めず、結局は何もしていない人が多いのでしょう。