プロ野球で参謀にあたるのが、ヘッドコーチだ。監督として、ヘッドコーチとして、野球評論家として球界を見続けてきた男が球界の参謀論を語る。
酒が飲める参謀を望む理由
監督として最初にサポートしていただいたのは伊勢孝夫ヘッドコーチだった。私より9歳上のベテラン指導者で、佐々木監督時代からの続投ゆえ戦力も把握していた。この点で、私は恵まれた形で監督になったと思っている。ただ、伊勢コーチは打撃部門の大家である半面、「ピッチャーのことはわからん」ということだったので、参謀役と打撃部門のまとめ役をお願いし、投手部門は小林繁コーチに任せた。そして、翌01年に12年ぶりのリーグ優勝を果たすのだが、チーム打率2割8分という圧倒的な攻撃力は伊勢コーチの手腕であり、一方でチーム防御率最下位の投手陣を見事にやりくりしてくれたのが小林コーチだった。この経験から、私はプロ野球チームの組織図が、時代とともに変化してきたのではないかと感じた。
体育会系縦社会という言葉が象徴するように、かつてのチームは監督を頂点にコーチ、選手が縦一列に並ぶ組織であった。しかし、最近では監督を中心に、各部門のコーチが輪のように囲み、その下に選手がいるというクラゲのような形になっているのではないか。私の若い頃のように、選手が監督に呼ばれるのは怒られるときだけ、ということはなく、選手たちは監督の考えや思いを常に知りたがっている。「黙って俺についてこい」の時代は終わり、緻密な相互コミュニケーションが強い組織の土台になるとも言われている。そうした時代にあって、監督の参謀役は必ずしも一人に限る必要はないと思う。投手と野手、攻撃と守備、育成と熟成。監督にとって各部門に参謀、あるいは信頼できる相談相手を持つことも理想的なチームづくりのポイントになる。
そこで、08年に北海道日本ハムファイターズに監督就任を要請されたときは、前年まで二軍監督だった福良淳一を登用してほしいという球団フロントの要望に従ってヘッドコーチにした。福良は七歳下だが豊富なコーチ経験があり、あらゆる分野での指導歴もあった。そして、私に見えていないものを見ようとする姿勢に深い信頼を寄せた。
監督は常にチーム全体に目配り、気配りをしているつもりなのだが、どうしても完璧にというわけにはいかない。それをいち早く察し、私が相談した際には納得できる意見を言ってくれた。酒を飲めないのが唯一の欠点だが、なるべくリラックスした雰囲気でコーチと話したいという私の意図を汲み、酒の席にも必ず顔を出してくれた。そこでも、普段は自己主張することのない若いコーチが話せば耳を傾け、自分の意見が求められる場面でははっきりと話をする。現在はオリックスでヘッドコーチを務めているが、私が一緒に仕事をした中では最高の参謀役だと感じている。