選手を一流に、監督を名将に

では、名参謀の条件とは何か。

まず、選手時代の成績よりも、指導者としてどういう経験を積んできたかが最重要だ。コーチで優勝を経験している、すなわち勝つ組織のノウハウを持っていることも大切だろう。

監督がコーチや選手とのパイプ役を求めるなら、口の固い人間が適任だ。「あいつは使えんな」などという監督の愚痴を他言するようでは論外だし、選手の信頼を得るためには腹の中をすべて吐き出させ、それを自分の胸にしまえる存在でなければならない。時にはメディアやファンの声から選手を守るなど、本当の意味で防波堤になれる人材がいい。

指導者としてのオールラウンダーにも適性がある。投手出身でも野手について学び、野手出身でも投手の育成に関心を持つ。何にでも口を挟むのはよくないが、自分の知識として得意分野以外も学ぶ姿勢は、これからの指導者に強く求められると実感している。

そして、福良のように監督とはあえて違った視点でチームや選手を観察し、監督が気づかぬ問題を的確に指摘できる能力。監督の思いを理解しながらも、決してイエスマンにはならない責任感が、名参謀の必須条件ではないか。

プロ野球選手の優劣は、技術力、すなわち残した数字で決まる。だが、チームで高い成果を挙げるためには監督以下、コーチ、選手、裏方も含めてすべての人間の心を一つにすることが不可欠である。その中で参謀とは、大きなものから小さなものまで、チーム内のあらゆる歯車をスムーズに回転させる潤滑油だ。選手を一流に、監督を名将にしてこそ、名参謀として歴史に刻まれるのだろう。(文中一部敬称略)

元近鉄・日ハム監督 梨田昌孝(なしだ・まさたか)
1953年生まれ。72年ドラフト2位で近鉄バファローズに入団。88年引退。野球評論家を経て、93年近鉄に一軍作戦兼バッテリーコーチとして復帰。2000年一軍監督に就任。08年~11年北海道日本ハムファイターズの監督して活躍。
(横尾弘一=構成 的野弘路=撮影 時事通信フォト=写真)
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