フリーター生活から突然「事務局長」へ

NPO:年収 約200万円(団体による)
菊池明弘氏●1965年生まれ。87年にソフトウエア開発企業に就職。建設企業などを経て、2006 年より長野県NPOセンター事務局次長、08年より事務局長。

金儲けから離れた仕事がしたい──。そう考えて、リタイア後にボランティアや社会貢献活動に取り組もうと考える人もいるだろう。だが、「NPOで働く」と決めて、早期退職を選ぶのは早計だ。

長野県NPOセンターの菊池明弘さん(47歳)は、「最初から一生懸命にやろうと思わないで、気楽に自分でできるところから始めたほうがいいですよ」とアドバイスする。

長野県NPOセンターは、主に県内のNPO団体の支援活動をしている。菊池さんは、いまNPOセンターの事務局長を務めているが、関わりができたのは偶然だった。

長野県出身の菊池さんは工業高校の建築学科を卒業後、大学に進学するも中退。専門学校で情報工学を学びソフトウエア会社に就職するも、4年で退社。その後、建設会社など様々な職業を転々とするなど「フラフラしている時代が何年かあった」(菊池さん)。フリーランスのプログラマーとして過ごす中で、長野県社会福祉協議会の「IT技術者派遣事業」でNPOセンターに出向くことになった。

「月額25万円、半年間の期限付きで、ホームページの製作や会員管理システムの開発などをやりました。半年間の派遣期間が満了したあとは、元のソフト開発屋の生活に戻っていたのですが、NPOセンターの活動には関心があって、事務所に寄ったり、たまに相談を受けたりすることもありました。そんな中、事務局長が家庭の事情で突然辞めることになり、06年7月から事務局次長として有償で活動を手伝うことになりました。当初は翌年3月までの約束だったのですが、人材不足ということもあり、08年からは事務局長として本格的に取り組むことになったんです」

数奇な巡り合わせだが、結果として菊池さんは国や県などの委託事業を通じてNPOセンターの活動に関わることになった。

多くのNPOはボランティアで運営されている。有償スタッフも、薄給であることが多い。すこしデータは古いが、経済産業研究所の06年度の調査によれば、常勤職員の給与は平均166万円に留まっている。

菊池さんのいまの月給は20万円。ボーナスはなく、年収はそのまま240万円となる。菊池さんは「事務局長となるより、派遣事業で仕事を請け負っていたときのほうが給与は高かった」と自嘲するが、自身の給与額を決め、それを理事会に諮るのも、事務局長である菊池さんの仕事だ。なぜNPOで働き続けているのだろうか。

「フリーター生活など職業を転々としてきたので、もう途中で投げ出さないように、意地になっている部分はあります(笑)。それに加えて、県内のNPOはまだまだ問題を抱えています。09年に県内600超のNPO団体を訪問調査したところ、NPOの抱える悩みを肌で感じました。様々な相談も受けたのですが、簡単なアドバイスであっても、必要とされていると感じました。

翌年、菊池さんはNPOで活動する人に少しでも役立ててもらおうと、運営対策などをまとめたマニュアルを作成し、配布した。菊池さんはいう。

「年功序列で給与が上がる世界がうらやましいと思うことも、たまにありますよ。でも、そういう生き方は楽しいのかな。生活は苦しいですけど、型にはまって一生を過ごすのは、イヤだと思っちゃうんですよね」

(プレジデント編集部=撮影)
【関連記事】
ミドル、シニアのための「転職・再就職」ガイド【1】
自分の市場価値を把握するために使う
仕事を辞めていいとき、踏みとどまるべきとき
会社にバレずにうまく転職活動する法
人脈、経験を駆使!年収大幅減でもゆとり生活を送る「熟年ダブルキャリア」