テレビ局が世界進出に踏み切れない事情
だが、ここでさらなる疑問が生じる。日本のドラマが国内市場中心であるとしても、テレビ局はNetflixオリジナル作品のような配信専用ドラマをもっと積極的に制作できるのではないか。
地上波テレビ局は24時間365日コンテンツを生み出す力とノウハウを持っている。事務所や制作会社との間には長年培ったネットワークもある。それを活用して、地上波ドラマを配信へ二次利用するだけではなく、最初から世界市場を意識した配信ドラマを作ればいい。そう考える人も少なくないだろう。
私自身もかつてはそう考えていた。実際、私はNetflixと共同で配信ドラマの企画を進めたことがある。地上波を前提としない作品を制作し、そのまま世界市場へ送り出そうという構想だった。しかし、議論を進めるなかで予想外の反発に直面した。
テレビ局は単なる制作会社ではない。ニュースも災害報道も選挙報道も担う公共的な存在である。そんなテレビ局が配信コンテンツ企業へ変質してしまってよいのか。
そうした議論が起き、結局その企画は実現しなかった。私はその時、日本のテレビ局はNetflixや韓国のスタジオ企業とは根本的に異なる存在なのだと痛感した。
私の長いテレビマン人生の中でも、テレビ局が本格的に配信専用ドラマの制作へ舵を切った例を聞いたことはない。ニュースも災害報道も選挙報道も担うテレビ局は、単なるコンテンツ企業ではない。だから世界市場向けコンテンツ企業へ全面転換したくても簡単にはできないのである。
ここに韓国ドラマ産業との決定的な違いがある。
日本ドラマは国内と海外の「二兎」を追えるか
今回取材した業界関係者のなかには、こんなことを言う者もいた。
「正直に言えば、今は国内対応だけで手いっぱいです。マンパワーも不足していますし、企画も枯渇気味です。本格的に海外市場と向き合う余裕は、まだありません。でも、そこをやらなければ日本のドラマは先細りになっていくと思います」
私はこの言葉が強く印象に残った。
「VIVANT」が映し出したのは、日本ドラマの弱点ではない。国内では圧倒的に成功できるという、日本市場の強さである。しかし、その強さが世界市場への挑戦を困難にしている。
日本のテレビ局は今後も国内市場の成功モデルを磨き続けるのか。それとも、国内向けと世界向けを切り分けた新しい仕組みを構築するのか。その選択を先送りにできる時間は、もうそれほど残されていない。
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