日本ドラマはなぜ海外市場を後回しにするのか
もっとも、海外視聴者が少ないことが、そのままビジネス上の失敗を意味するわけではない。日本のドラマは地上波放送後、TVerやNetflix、Prime Videoなどへのライセンス提供によって一定の収益を確保できる。つまり、日本のドラマ産業は海外市場で成功しなければ成立しない構造にはなっていない。言い換えれば、世界市場向けに作品を最適化しなければ生き残れない産業ではないのだ。
今回、この原稿を書くにあたって長年コンテンツビジネスに携わってきた関係者に話を聞いた。彼は開口一番、こう言った。
「日本のドラマは、海外市場をまったく意識していないわけではありません。ただ、最初から世界市場で勝負する前提では作られていません。まず国内で成功することが優先で、その後に海外展開を考えるケースがほとんどです」
理由は二つあった。一つは作品づくりの問題である。
日本独自の文化や価値観、人間関係の機微をグローバルスタンダードへ変換するのは容易ではない。無理に海外市場を意識すると、かえって不自然で歪な作品になる危険がある。日本語特有のニュアンスを他言語へ置き換えることにも限界がある。
国内だけで採算が取れることの落とし穴
もう一つはビジネスの問題だ。
国内市場だけで投資を回収できるケースが少なくない。だから、あえて大きなリスクを負ってまで海外市場向けへ作り変える必要がない。さらに彼はこうも言った。
「まだ日本のテレビは視聴率に拘っている。広告収入が激減しているとはいえ、まだ主たる収入源であることには変わりはない。地上波ファーストになるのは当然だ」
特に「VIVANT」が放送された日曜劇場はTBSの看板枠である。視聴率が下がれば、当然厳しい評価にさらされる。地上波ファーストから簡単に脱却できない理由は、そこにもある。
「イカゲーム」は韓国市場だけを相手に作られた作品ではない。最初から世界市場が顧客だった。人口約5000万人の韓国では、国内市場だけで巨額制作費を回収することは容易ではない。だから韓国のコンテンツ産業は、必然的に海外市場を視野に入れて成長してきた。
一方、日本は人口1億人を超える巨大市場を持つ。実際、「VIVANT」は国内だけで1500万人以上の視聴者を集めた。国内市場だけで成立してしまうからこそ、海外市場へ最適化する圧力が弱いのである。
つまり、韓国ドラマと日本ドラマの違いは、才能の差というよりも市場構造の差なのである。

