防犯カメラよりやっかいな監視網
オルドスで覚醒した私は、どこにいても見られている、という前提で動くようになった。丸裸にされ、衆人環視のなかにいると考えるのである。
1990年代前半、私は日本の研究チームに通訳として加わり、新疆ウイグル自治区へ何度も足を運んだ。毎年夏に現地へ入り、長く滞在した。
フィールドワークを終えて日本へ帰ろうとすると、決まって公安が現れた。彼らは、私たちがどこで何をしたか、こちらが口を開く前に並べたてる。
「あそこで写真を撮ったでしょう。撮影禁止の場所ですよ」
新疆には、カメラを向けてはならないところが数多くある。核実験に関わる施設の周辺などだ。ただし、草原や荒野のどこが禁止エリアなのか、外部の人間にはわからない。遊牧民の姿や美しい風景に惹かれてシャッターを切っただけで、あとから咎められる。
正直に告白すれば、若気の冒険心から、ここはダメと知りながら撮った写真もある。
密告したのは、運転手だった。私たちが雇った者もいれば、現地側が手配した者もいた。いずれにしても、ハンドルを握りながら、私たちの一挙手一投足に目を光らせていたのである。
現在の中国は、至るところに監視カメラが設置されている。先日、内モンゴルから来日した知人によれば、大草原を走る道路の交差点や分かれ道には、すべてカメラが据えられている。地元警察が1日に何度も録画を回収し、永久に保存する。コンビニの防犯カメラの映像が数日で上書きされる日本とは、発想がまるで違う。
しかし、カメラより強力な監視網がある。庶民である。
乃木たちがどこへ逃げてもすぐ見つかるワケ
「VIVANT」の第1シーズンで、乃木たちは中央アジアにある架空の国バルカで、どこへ逃げてもすぐに見つかってしまう。日本人には不自然に見えるかもしれないが、私にとってはリアリティがある。全市民が見張り役の状況は確かにあるのだ。
中国でもモンゴルでも、子どもの頃から「外国人は悪事を働く。スパイ活動に手を染める」と教えこまれる。見慣れない人間がいたら、通報するのは国民の義務。隣人も、運転手も、当局の目と耳になりうるのである。
録画するだけのカメラと違って、人間は通報する。監視する側にとっては、重宝このうえないだろう。


