ターゲットは大企業に限らない
ITの専門家の見方を整理すると、AIが二つの点でサイバー攻撃の様相を変えたようだ。第一はスピードだ。米グーグル傘下のマンディアントによると、2018年当時、特定のソフトウエアの弱点が見つかってから、攻撃に使われるまでの期間は約2カ月だった。ところが、今は、修正プログラムが出る前に攻撃が始まる例が増え、平均すると修正の約1週間前に悪用されている。
米マイクロソフトは、中国系とされるサイバー攻撃集団が、AIツールを使い3時間足らずで管理者権限を奪った例を報告している。AIを使うと、高度な技能がなくても、短時間で大量の攻撃を仕掛けられるようになる。これまで狙われにくかった、中小企業や個人も標的になりうる。
第二の脅威は、攻撃と被害の連鎖だ。AIは攻撃の道具になるだけではない。企業はAIに、人に代わって社内外のシステムにログインできる、「通行証(トークン)」を持たせている。このAIが乗っ取られると、通行証ごと奪われ被害は一気に広がる。
2025年、米セールスロフトのAIチャットボット(Drift)が乗っ取られた。そのケースでは、トークンを使って米グーグルなど、700を超える組織が次々に侵入された。クラウドなど一部の企業への依存が集中すると、1カ所への攻撃や障害が、広い範囲の金融システムや社会全体の混乱を招きかねない。ウェブサイトの開発に広く使われるプログラミング言語PHPの脆弱性問題では、被害が連鎖的に広がる恐れを再認識することになった。
社内外の警告を生かす体制はあるか
海外の事例を見ると、攻撃を受けた企業にとって、最も重要なのは迅速で誠実な対応だろう。今年7月、米オープンAIのAIエージェントに侵入された米AI企業ハギングフェイスは、被害を封じ込め、侵入の事実の詳細を公表し、米連邦捜査局(FBI)にも届け出た。
一方、オープンAIは、自社のAIが、6月に豪州政府の医療保険関連サイトに侵入した事案を9月まで豪政府に伝えなかった。それに対して、アルバニージー首相は「遅すぎる」と批判した。AIが普及する以前のサイバー攻撃事案でも、迅速に詳細を開示して顧客を守ろうとする姿勢が、企業の評価を大きく左右したようだ。
いま、日本企業には、AIの脅威への対応策として、判明した脆弱性を直ぐに塞ぐことが求められている。そのためには、社内外の警告を迅速に経営判断し、それを修正作業に反映する体制整備が重要になる。
被害が起きた場合、企業はまず顧客保護を最優先で考えることが必要だ。そして、迅速に詳細を利害関係者に伝えて補償の方針を示す。監督官庁にも、事態を早急に報告する。
AIの脅威に対応するため、専門人材や資金の確保を急ぐ日本企業は増加するだろう。サイバー攻撃を過小評価することは適切ではない。事態の展開によっては、大きな損失が発生することが考えられる。それを防ぐためには、とにかく、迅速に事態を公表し、監督官庁にも相応の支援を求めることが必要だ。
検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます

