人間本来の機能に立ち返って考える
このような謎の相談を持ちかけられたら、やるべきことはただ1つ。人間本来の機能に立ち返って考えることです。
リハビリテーションとは、再び(リ)適応する(ハビリテーション)ことであり、自分を取り巻く作業が変わったなら、脳の仕組みに立ち返り、作業への臨み方を変えて適応し直すことです。脳の仕組みに立ち返ると、Aさんの悩みを整理できます。
Aさんをはじめ、多くの働く人たちと面談をしていて、あることに気づきました。彼らが作業スピードを速める方法は、大きく2種類に分かれます。
1つは、二度手間を解消すること。同じことを記載する書類を1つにまとめる、プロジェクトの立ち上げ会議を省いて各自準備して本題から始める、書類の形式を統一してチェックする箇所を減らすなどして、手数を減らす方法です。これは、作業速度が上がります。
そして2つ目は、考える間を省くこと。不明なことはすぐ検索する、AIに入力するプロンプトもAIに聞く、AIで完成させた資料をチェックする。考えたり悩んだりする時間を省いて、他人やアルゴリズムやAIの答えを使って作業する方法です。じつはこれが、かえって作業速度の遅延を招いています。
ネットやSNS、AIをチェックし、再入力し、チェックする。相手の「意思」が読めないまま違和感だけが募り、チェックする情報量は膨大になり、完成の目安がない。違和感を消しきる頃にはかなり時間が経過する。
スピードを上げようとするほど、時間がかかります。なぜなら、脳はこの作業ができないからです。作業速度を上げても省いてはいけないもの。
それは、考える間です。
脳は「予測」し、成長する臓器
脳は、目の前に突然現れた情報に対応することができません。驚き、戸惑い、違和感を持つだけで、動きが止まってしまいます。
私たちは、この驚きを興奮だと勘違いしがちです。一瞬で答えが出たり完成することに興奮し、その価値が高いと感じます。そのため、脳が困惑して動けないにもかかわらず、積極的に考える間を省こうとします。
ですが、脳は「反応」する臓器ではありません。「予測」する臓器です(注1)。考えて先の展開を予測して準備し、実際に行動してみた感覚をもとに予測を更新します。常にこの作業を繰り返し、経験を積んで成長する。それが、脳という臓器です。
(注1)Friston,K,Kilnea,J,& Harrison,L.:A free energy principle for the brain. Jornal of Physiology,Paris,100(1-3),70-87.

