なぜアメリカは9.11テロを防げなかったのか。東京工科大学教養学環教授の落合浩太郎さんは「2001年のアメリカ同時多発テロ後、アメリカ政府は情報機関の大規模な再編を進めたが、実際には直前の段階で、関係機関は重要な手掛かりをいくつも掴んでいた。後に行なわれた検証では、『組織が足りなかったこと』よりも大きな問題が指摘されている」という――。
※本稿は、落合浩太郎『面白すぎて時間を忘れる「スパイ」の世界』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
首相を守れ! 秘密組織の「週刊誌対策」
本来、内閣情報調査室(内調)は、日本のインテリジェンス・コミュニティの司令塔として、国際情勢や安全保障上の脅威を分析し、官邸の意思決定を支える役割を担う組織である。
ところが永田町では長年、半ば自虐的な冗談として、こんな話が語られてきた。
「内調トップの最大の仕事は、他国の暗号を解読することではなく、週刊誌の早刷りを誰よりも早く手に入れることだ」
紙媒体が全盛だった時代、『週刊文春』や『週刊新潮』の発売前原稿をいち早く入手し、首相や閣僚に関する記事が掲載されていないか確認していたともいわれる。記事の内容次第では、翌日の国会対応や記者会見、政権運営そのものが大きく左右されるからだ。
もちろん、これは内調本来の任務ではない。だが内調についてはこれまでも、野党や政界内部の動向を収集し、官邸へ報告していたのではないかという指摘や報道が繰り返されてきた。
真偽や程度については議論があるものの、内調が対外情報の収集・分析よりも、国内政治情報に比重を置きすぎてきたという批判は少なくない。
問題は現場の能力だけではない。政治の側が、インテリジェンスを何のために使うのかという点である。
どれほど優秀な分析官がいても、国家戦略より政局対応が優先されれば、組織のエネルギーは内向きに消費されてしまう。日本の情報機能の弱さが指摘される背景には、政治の側の責任もあるだろう。

