ツールの切り替えで集中力がプツリ
「業務で使用するツールやアプリが増えすぎて、ミーティングや書類作成ごとに違うツールを使うことになり、ツールが替わるたびに集中力が途切れます」
こう話すAさんは、業務上で50以上のツールやアプリを使用するまでになっていました。例えば、チャットでやり取りをするだけでも使用するツールが5つあり、どのツールにもチャット通知が来るので、チャットへ返信をしているだけなのに、その都度ツールを切り替える作業が追加されていました。さらにAさんは、こう続けます。
「例えば、プロジェクト管理ツールに入力するときに最短で解決できる方法を調べた方がいい気がしてAIに聞くと、意図と少し違う回答が出るので調整をするようにまたAIに聞く、という感じの作業を繰り返します。そうすると、短い文章を入力するだけの作業なのに、AIと数回往復しているうちに時間がかかって他の作業も遅れてしまいます」
たしかに、プロジェクト管理ツールで進行状況が一覧できれば、確認作業は、自分で調べるより格段に速くなります。そして、より速いやり方を考えて入力できれば、プロジェクトもぐいぐい進みます。AIに聞いて何度も調整すれば、自分で試行錯誤する手間も省けます。どれも生産性を高める、理にかなった行動ではあるのです。
かえって作業速度が遅くなる落とし穴
ただ、どうもおかしい。
ツールの切り替えで集中力が途切れ、AIの回答を調整するやり取りに時間を要し、長期的な作業は遅れていく。作業速度を上げる方法で、作業速度が遅くなる。
このような相談は、コロナ禍から増加し始めました。
私は作業療法士として損傷を負った脳の回復を促し、患者さんが再び日常生活を送るためのお手伝いをしてきましたが、病院で待ち受けるのではなく、働く人の現場に出向いて脳のトラブルを防ごうと、研修や外来でサポートする事業に10年以上取り組んできました。
働く人たちの相談は、デジタル環境やAIの登場によって様変わりしました。特に大きく変わったと感じるのは、「自分の意思」ではなく起こる不調や疲労の訴えです。なぜ不調なのか、なぜ疲れているのかが、本人にもわからない。仕事はどんどんラクになっているのに、別の作業が発生していて、そのせいで全体のスピードは変わらない。いや、むしろ遅くなっているかもしれない。こんな相談が増えているのです。

