※本稿は、石名坂豪『熊害(ゆうがい):獣医師ハンターが見たリアル』(NHK出版)の一部を再編集したものです。
射殺対応時に起きた「冷や汗体験」
もし、命中後のヒグマに深いヤブの中で倒れられて、姿が直接見えない状態で死亡確認作業を実施しなければならなくなった場合、これは実際の現場ではよく発生する状況だが、とにかく慎重に作業を進める必要がある。
射手は「半矢にしてしまったかもしれない」と心理的に焦りがちだが、まずは深呼吸をして、ヤブの中からヒグマの動く音が聞こえないか耳をすます。胸部にきちんと命中して胸腔内臓器に致命的な損傷を与えていても、呼吸障害や循環障害、失血で死亡するまでには、少し時間を要する。
そのため、少し時間をおいてから、単独ではなく複数人の射手がヤブ内に突入することが、瀕死のヒグマの最後の力を振り絞った反撃を受けるリスクを低減させるために重要である。
ヤブに突入する際は、ヒグマと接しても怯えない性格の猟犬を動員することができれば、人間よりも鋭敏な犬の嗅覚や聴覚の力を借りることができ、リスクがさらに低下する。猟犬とその飼い主を応援に呼び、その到着を待つことも、その間にヤブ内のヒグマが死亡する可能性が高まるため、有効である。
猟犬やドローンで探索するのも有効
最近であれば猟犬の代わりにドローンを活用して、人の突入前にヤブ内を捜索することも考えられる。ただしドローンは、赤外線カメラ付きの機種であっても、フキの大きな葉のような遮蔽物の下にいる動物(熱源)は感知しにくい。さらに早朝以外の日中だと、日光で温められた岩などのノイズが多くて動物の熱源の位置がわかりにくいため、過信は禁物である。ただ、ドローンの準備や飛行にも一定の時間を要するため、猟犬の応援を呼ぶ場合と同様の理由からも、リスク低減に有効である。
死体捜索時の猟犬の有用性を示すこんなエピソードがある。ある年の7月中旬、本職が農家のハンターが日没間際に農地の辺縁でヒグマを撃った後、ヤブ内に入られて日没を迎えてしまった。翌日の早朝に私ともう一名が応援に入り、計3名の射手で前日の発砲・命中地点から捜索を開始したのだが、踏み跡や血痕は早々に不明瞭になり、人間の目ではよくわからなくなってしまった。
この時、応援に連れてこられていたプロット・ハウンド系の若い犬が、命中地点からかなり離れた位置の丈の高い、中の見えない深いササヤブの中でしきりに吠えたため、半信半疑で私が確認に向かったところ、外からはまったく見えない状態のヒグマの死体(メス、体重70キログラム)を発見することができた。命中地点から死体発見地点までは、直線距離で約140メートルもあった。

