ウトロ市街の国道沿いに巨大ヒグマ
ヒグマ捕獲の現場の流れや雰囲気をさらに深く理解していただくため、私が関わった具体的な射殺対応の事例をもう一つ紹介したい。
ある年の9月末の夜間、斜里町ウトロ市街地の東端付近の国道沿いで、自然ガイドの男性が大きなヒグマを目撃した。通報を受けて現場に駆けつけ、聞き取りを実施したところ、どうもそのヒグマは建物裏のヤブに入り、コンビニエンスストアの方向へ移動した可能性があった。
しばらく周辺を巡回しても再発見できなかったためいったん撤収し、翌日の早朝に明るくなってから周辺を探索したところ、コンビニエンスストア付近の公衆トイレ脇のわずかな地面に、南方向を向いている大きなヒグマの足跡を発見した。その方向に150メートル弱進むと、カラフトマスやシロザケが遡上している小さな川がある。
そこで川沿いも捜索すると、案の定ヒグマがマスを食べた痕跡が発見された。巨大なオス成獣が、ウトロ市街地の電気柵防衛ラインの内側に海岸沿いの弱点から侵入し、川沿いのヤブに潜伏しながらマスを捕食している可能性が濃厚になったのである。
近づいてきているのに姿は見えない
そこで、川沿いで巻き狩りを試みる方針となり、私を含む計3名の射手が川の上流側で待ち伏せし、下流側から数名の勢子(追い立て役)が大きな声や音を出して、ヤブ内に潜伏していると推測されるヒグマを上流側に追い立てる作戦が決行された。当初は川の右岸側の急斜面に2名、左岸側に1名を配置する計画だったが、左岸の位置決めに若干手間取ったため1名が応援に向かい、右岸側は私一人が「待ち」になった。
下流側から勢子がスタートするとの無線連絡を受けた後、しばらくは静かな時間が流れた。やがて、下流方向から勢子の出す声が小さく聞こえ始めた頃、私の斜め前方のササヤブがガサガサ揺れる音が聞こえ始めた。銃声による騒音性難聴の進行防止のため、左耳にだけ耳栓をし、大きな金属音が出ないよう静かにボルトを一往復させて、弾倉から薬室にライフル実包(弾)を送り込んだ。
待ち伏せ地点である急斜面の中腹の、私の横に生えている木に少し体重を預けながら膝射姿勢をとって待つ。ササヤブの揺れる音が少しずつ近づいてくる。やがてヤブがゆっくり揺れる様子も視界に入ってきたが、ヒグマの体は完全にヤブの中で全然姿が見えない。これでは正確に狙うことができない――。

